第28話 フローラさんと買い物

No28

フローラさんと買い物




 俺の買い物が終わり、フローラさんの買い物の時間になった。氷雪季もあと1ヶ月もすれば終わり今度は暖かい花風季になる。今の内に花風季向けの服を買いたいそうだ。

「では、行きますしょう! フン~フッフン~フフン~~~」

 と、かなりのご機嫌だ。


 前の世界でもこんな事なかったのに.....


 最初に来たのは服屋だった。店内には色とりどりの服が飾られていた。すでに、花風季向けにデザインされている服もあった。

「いらっしゃいませ、フローラさん!」

「久しぶりって先月も来たわね」

「はい、ご贔屓にありがとうございます。本日は花風季用の服ですか?」


「えぇ、そうなの。幾つか見せてもらえるかしら?」

「はい、では少々お待ち下さい。」

 と、店員との話を聞くと馴染みの店らしい。


「フローラさん、この店はよく来るんですか?」

「そうね、割と来るわよ。色使いやデザインがわたし好みでね。他のお店も行ったりするんだけど、大抵はこの店で買うわね」

「フローラさん、お待たせしました。あちらで試着できますからどうぞ」


「ありがとう、じゃ、ちょっと試着してくるわね」

 と、足取り軽く試着室へフローラさんは向かった。


「ご挨拶がまだでしたね。わたしは、ジュリーです。よろしくお願いします、セイジロウさん」

「こちらこそ、お願いします。セイジロウです。....なぜ、私の名前を?」

「フローラさんから聞いてますよ。色々と....ふふふ」


「アハハ...まぁ、お手柔らかにお願いします。それより、見事な品揃えですね。デザインもそうですが、色使いも...綺麗に染められてるんですね」


 店内に飾られている服を見ると、赤や緑、青や水色、白に黄色、紫や黒など本当に多彩な色を使ってる。


 それに、デザインも古ぼったい感じもしない。スカートやワンピース型は多いがその分、飾り付けで補っていた。フリルや刺繍、織り方も繊細で職人の技術の高さが分かる。


 女性の服のデザインには興味がなくはないが、知識は乏しい。だが、女性が可愛く綺麗に妖艶に着飾るのは賛成だ。


「セイジロウさんは、男性にしては珍しく女性の服に興味がおありですか?」

「そうですね、見るのは好きですよ。女性が可愛く綺麗になるのは男性にとっても嬉しいですから」

「まぁ、寛大な方ですね。では、ここは一つ髪飾りなどはいかがですか? 銀細工に白魔石を飾りつけた物ですよ」


 細工師が細やかに作った台座に小さな白魔石があつらえてある。フローラさんの紫色の髪にはちょうど合うと素人の俺でもわかった。


「綺麗ですね。この白魔石は、魔力が補充されてるんですよね?」

「はい、装飾用に表面を少し加工してますが、魔石としての能力は失ってませんよ。いざという時の魔力補充にも使えますし、身を守る為にもできます」

「ほぅ...良く考えられてますね」


「女性の身には何時何が起こるか分かりません。備えはどれだけあってもいいのですよ。それが可愛い物だったらなおさらです」

「そうですね、コレをいただけますか?」

「はい、ありがとうございます!フローラさんもきっと喜びますよ!」


 と、ジュリーさんは太鼓判をおす。なかなかの商売上手な誘導で買ってしまった髪飾りは、木彫りの箱に詰められ渡された。銀貨2枚で割と良い値段だが、フローラさんの笑顔が見れるなら安いものだ。


 べつに貢くんになるわけじゃないぞっ!惚れた女が綺麗になるなら買うだろ?


 しばらく店内を見たり、ジュリーさんと話をしてるとどうやらフローラさんの買い物が終わったみたいだ。

違う店員がフローラさんの買い物袋を持ってやってきたので、代わりに俺が買い物袋を持った。


「セイジロウさん、お待たせ。つい、夢中になってしまったわ。でも、欲しいものが手に入ったから良かったわ!」

「なら、良かったですね。私も、ジュリーさんに色々と教わりましたよ。女性の服飾についてはほぼ無知ですから」


「フローラさん、セイジロウさんはとても勉強熱心ですね。大事にしませんと、他に取られてしまいますよ?」

「わっわたしは、べつにっ!....でも、勉強熱心は、認めます。それと、問題児な点もね....」


 おっと、空気が変わったぞ...ささ、次に行こうか!


「ジュリーさん、今日は話せて良かったです。さっ、フローラさん。次に行きましょうよ! では、また!」

と、話がこっちに飛び火しないうちに次にいくぞ~!!



 次に向かったのは、靴屋だ。ここもどうやらフローラさんの行きつけのお店だそうで、たくさんの靴の中から選んでいる。


「フローラさんが買い物に男性を連れて来たのは初めてですよ。セイジロウさんは、フローラさんのお気に入りですか?」

「どうなんですかね? 先は分かりませんが、今はまだ友人ですよ」

 と、靴屋の店主フリードさんと話をしている。


「フリードさんは男性なのに女性靴の店主さんなんですね。いや、特に意味は無いですよ。本当に」

「えぇ、分かってますよ。蔑み言をおっしゃる方で無いのは話せば分かります。僕が女性靴を作るのは、妻がきっかけですね」


 フリードさんの話を聞くと、元々フリードさんは革細工に興味があり妻であるシェリーさんに、革細工の装飾品を作ってはプレゼントしていたそうだ。


 フリードさんのプレゼントする革細工の装飾品はどれも喜んでくれたそうで、いつしか彼女の笑顔の為にプレゼントするようになっていたそうだ。


 そんなある日、出先で彼女が足を引きずっているのを見て尋ねたそうだ。

「シェリー、足が痛むのかい?どうしたんだい?」

 と聞くと、彼女は可愛い靴が履きたくて少し足に合わない靴を買い無理に履いていたと言った。


 フリードさんはシェリーさんの話を真剣に聞き後日、彼女に靴を送った。彼女は今までにない素晴らしい笑顔を見せ、フリードさんが作る靴だけを履くようになった。それからは、幾つも彼女に靴を送り靴作る仕事になったそうだ。


「まぁ、そんな感じで今に至るわけですよ。ちなみに、フローラさんの靴を選んでる彼女が僕の妻ですよ」


 そういってフローラさんの方を見ると楽しげに笑う金髪ショートヘアの女性がいた。

 シェリーさんの笑顔を見ると、可愛いらしく大半の男性ならまた見たいと思うような笑顔をしていた。


「可愛いらしい奥さんですね。あの笑顔にフリードさんはやられちゃったんですね?」

「アハハ...そうですね。やられちゃいましたよ。妻の笑顔が僕の生き甲斐ですね!」


 はい、ご馳走です。さすがに、爆発させる分けにもいかず、ここは黙って二人の幸せを願った。


 まぁ、大人の余裕ってヤツですよ...ハハハ


「あなた、決まりましたわ。この2足を箱に詰めてください。未来の旦那さんもお待たせしましたね」

 と、ジョーク絡めてくるフリードの奥さんのシェリーさんはどうやらフローラさんの悪友的存在?


「シェリーさん! 冗談が過ぎますわっ!セイジロウさんに迷惑ですよ!」

「あら、フローラさん。貴女が連れてきた男性ですよ。迷惑なら付いてきませんわ。そうでしょ、セイジロウさん?」


「はい、そうですね。初めまして、シェリーさん。お話は旦那さんから聞いてますよ。笑顔が素敵な奥さんだと」

 と、からかわれたお返しだ。


「あら、どんな話を? あとで、フリードに聞かなければねぇ?」

 と、シェリーさんはフリードさんの方を見ながらニコリと笑った。寒気がするような笑顔だった....


「ちょっと、お客を待たせて談笑するなんて失礼よ?」

「あら、ごめんなさい。貴女の男性が素敵だったからつい話が弾んでしまったわ」

「わたしのじゃないわよっ!」

「そこまで否定しなくてもねぇ、フローラさん...」


「あっ! ちっ違うのよっセイジロウさん! シェリーさんが変な事を言うから!!」

「あら、変な事を考えてるのはフローラさんじゃなくて? わたしは、何も言ってませんわよ?」

「シェリーさん!....フリードさんも見てないで止めて下さい!」


「えっ? 僕ですか?」

 と、フリードさんに飛び火したのでそろそろ終わりにしよう。


「さっ、フローラさん。次の店に行きませんか? せっかくの休日が終わってしまいますよ?」

 と、フローラさんに話かけ会計を済ませて店を出た。


 外は陽が陰りはじめ少し肌寒くなっていた。


「お茶にしませんか? フローラさん」

「そうですね。喉が渇きましたね、あの店にしましょう」

 と、俺たちは店に入り温かい紅茶を頼んだ。


「もう少し買い物がしたかったですが、そろそろ暗くなって来ましたから今日はこの辺にしませんか?」

「そうね、目的の物は買えたから良いわよ」

 と、店員が紅茶を持ってきたので喉を潤す。茶葉の香りが良いな。


「フローラさん、夕食はどうしますか?」

「そうね....セイジロウさんはどうしますか? 良ければ一緒にしませんか?」

「はい、喜んで。お店は任せてもよろしいですか?」

「えぇ、今日は荷物を持ってもらいましたからね。お肉料理が美味しいお店にしましょう」


 と、フローラさんが案内したお店で肉料理を食べ、その時に髪飾りを渡した。フローラさんは、照れながら受け取ってその場でつけて見せてくれた。俺にとって素晴らしい休日になった。


 ちなみに、肉料理はメチャクチャ旨かった。塩、コショウ、甘辛、肉巻きなど前の世界でも見たことがあるような料理が出てきて思わず、日本人ですか? と声をかけそうになったがグッとこらえた。


 俺は、もう元の世界には帰れないのだろうか?

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