第26話 氷雪季の過ごし方

No26

氷雪季の過ごし方






 俺は、娼館で娼婦のナーリャさんと話をしていた。内容は、バイトの話だ。

「--で、そのセイジロウさんが販売する甘味と冒険者ギルドが運営する食事処の手伝いねぇ....悪くない話だけど、乗れないわ」

「えっ? そんなに悪い話ではないはずですよ」


「そうね、悪くないわ。わたしが一般人ならね。わたしは、娼婦よ。娼婦は娼婦なりの矜持もあるしルールもあるわ。勝手に冒険者が集まるギルドで客引きはできないわよ」

「ルールですか....」


「そうよ、セイジロウさんはまだハルジオンにきてから日が浅いし綺麗な場所しか知らないわ。陽が当たるとこもあれば暗闇もあるのよ。私達は、その両方の狭間で過ごしてるの」


 ナーリャさんが、冒険者ギルドで客引きをすれば目立つ。仮に目立たないようにしても冒険者同士て話が広がり娼婦達にも話が広がる。そうなると、ナーリャさんに危機が訪れ、最悪の場合は命に関わる。


 あとは血見泥の展開は予想に難くない。


「そうですか、そうなりますよね....」

「ごめんなさいね。わたしは、火種になりたくないのよ。いずれは、陽の下で働きたいけど今はまだ無理なのよ」

「分かりました。この話は水に流してください」


「そうね....ただ、わたしがこっちの世界から出た時にまだセイジロウさんがわたしを必要なら、声をかけてちょうだい。その時は、良い返事ができるはずよ」


 と、ナーリャさんとの話は終わり酒を飲みなおして自宅に帰った。ラム爺からの金はナーリャさんに渡した。ラム爺に先に帰ると伝言を言い残して.....


 俺は、今後の予定を考えながら夜道を歩いた。


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


あれから日が進み、氷雪季へと本格的になってきた。吐く息は白く、肌に当たる風は冷たい。


 いつも通りの毎日が続く。朝から冒険者ギルドに行き、依頼を受けてからプリンの仕込み、フレンチトーストの販売。魔法の特訓にギルドの食事処の手伝い。帰ってから依頼の魔力補充と自分の魔石に魔力補充。


 これが、この1ヶ月のルーチンワークだ。


もし、誰かしらの人手が雇えて入ればもっと効率が良かったたがそう都合良くはいかない。やはり、異世界ファンタジーのご都合主義は俺に冷たい。


 しかし、嬉しい事はあった。冒険者ギルドのランクが上がったのだ。GランクからFランクになった。だが、Fランクからは討伐依頼も受けないと今後はランクが上がらないとアリーナさんから説明を受けた。


 が、この寒い氷雪季の中での討伐依頼は受けたくない。なので、ランク上げは目指さず、花風季に向けて資金を稼ぐ事に重きを置いた。


 食事処で新たに新作メニューのレシピをビルドさんに渡し利権契約を結んだ。メニューが売れる度に1割を口座にいれてもらい、1年後はレシピの利権をビルドさんに譲渡する事にした。


 新作メニューは、ピザを考案した。パン生地さえ手に入ればピザを作るのは簡単だ。トマトペーストを作り、ハーブ、ソーセージ、チーズをのせて窯で焼くだけだ。


 まずは、定番のチーズとソーセージ。次にプリンの原液とドライフルーツのピザ。オーク肉の薄切りとジャガイモとチーズにコショウをかけたピザ。の3種を売り出した。


 さらに、氷雪季だけ昼から夜までの販売時間をビルドさんに言って延長してもらった。

 冒険者のほとんどが依頼を受けずに氷雪季を街中で過ごす。が、情報収集は怠らない。数日に一度は冒険者ギルドに顔を出し、顔見知りの冒険者や受付と話し情報収集を行う。


 そこに、焼きたてのピザの匂いが漂っていれば食べたくなるのが人間の食欲だ。


 売り上げは順調に伸びた。さらに、簡単な娯楽道具を製作した。


 異世界ファンタジー定番のリバーシだ。


 ラム爺に頼んで幾つか頼んで作ってもらったのだ。それを、ギルドの食事処で貸し出し、貸し出し料を銅貨5枚で貸し出した。


 リバーシをしながらピザやフライドポテトを食べエールを飲む冒険者達。

 リバーシをしながらプリンや紅茶、フレンチトーストを食べてる女性達。


 連日、ギルドの併設する食事処は賑わっていた。


 ラム爺のトコも賑わっていた。リバーシの制作注文が殺到していた。子供でも遊べる簡単なルールに安く手に入る娯楽道具は、瞬く間に人気を出した。


 ラム爺と俺は、余計な輩がコナをかける前に商業ギルドへと話を持ちかけた。

 リバーシの販売利権を商業ギルドに受け渡しリバーシの優先制作販売を契約した。


 リバーシの売り上げの一部をラム爺と俺に分配し、制作もラム爺を通す事に決まった。ちなみに、冒険者ギルドも一枚噛んでる。コレによって余計なちょっかいもないし、正当な利益も得られる事となった。


 俺は、朝から夜までギルドの食事処に張り付く事になったが、ビルドさんが2人ほど雇い忙しさも軽減された。


 休憩の時間は魔法の特訓もしている。もちろん、魔石に魔力を補充する依頼も受けてるし、自分の魔石も増えてきた。


 今では、銀貨2枚する魔石を2日に一度のペースで補充出来てる。自身の魔力量も着実に増えているが、まだ、半人前程度だ。


 氷雪君が終わるまでには、1人前とは言わないが一人で困らない程度の討伐依頼が受けれるようにするのが目標だ。

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