第7話 甘味で釣れた美人

No7

甘味で釣れた美人





 俺は、個室で一人で待ってるとフロア長のフローラさんが入ってきた。


「お待たせしました、セイジロウさん。ご相談があると聞きまして伺いに参りました」

「はっ、はい。実はまだこちらの国、街についての知識が乏しくてですね.....実は--」


 さっそくフロア長のフローラさんに、俺の話を聞いてもらった。正直、年下で美人でスタイルが良い人に人生相談をするのは、男としてのプライドがかなり傷つく。


 が、今はそんなプライドより生活するための知恵と金が必要だ。


 あと1、2日もすれば金が尽きる。前と同じように働けば良いが、それだけじゃまた社畜生活に戻る。それだけは、イヤだ!!


 幸か不幸かは分からないがせっかく異世界ファンタジーのような世界に来たんだ。やるだけやってみたいし、もっと世界を体験したい!


「--お話は分かりました。セイジロウさんが悩むのは理解できます。堅実なのは、やはり読み書き計算を覚えるのがよろしいかと、私は思います」


「そうですね.....分かりました。私も分かってはいたんです。一段飛ばしで階段は登れないと.....それで、読み書き計算を教えてくれる人や施設などはありますか?」


「えぇ、商人ギルドに依頼を出せば教えてもらえるでしょう。依頼料はセイジロウさんがどこまで覚えるのかで変わりますが....あとは、孤児院で教えてる青空教室とかですかね。まぁ、こっちは本当に最低限ですし、学びの進みも細々ですから、あまりオススメはしません」


「そうですか.....」

 まぁ、大体が予想の範囲だった。依頼の件は早くに俺も頭に浮かんだ。読み書き計算が出来る、所謂、家庭教師を雇えば勉強は出来る。だが、やはり問題なのは金だな....


 やはりどの世界も金が必要か.....世知辛いな....


 しかし、基礎学さえ学べばあとは独力で何とかなるはずだ。小学生レベルの読み書き計算が出来ればこの世界では1人前扱いだろう。なら、家庭教師の費用は押さえられるはずだな。あとは誰を雇うかだが....


「フローラさん、ギルド職員を雇う事は出来ますか? この場合は、各ギルド員が対象になります。やはり読み書き計算を仕事にしている方を雇い教えてもらいたいと思うんですが.....」


「出来なくはないですが、高いですよ単純に。ギルド職員は基本、昼間を職務の時間に充てています。給金も高いです。仕事終わりに数時間、休みの日に数時間雇うだけで銀貨数枚はかかるでしょう」


「えっ、そんなにですか?」

「はい。ギルド職員にとってそんなにメリットがある訳じゃないですからね。それなりに高い給金を貰ってるんです。別に稼ぐ必要は個人によりますが、わざわざ自分のプライベートを削って働かないでしょう。なので、依頼料は高くなります」


「そうか....そうですよね.....」


 言われて納得だ。おれなら、別にやらないな。仕事が終われば早く帰りたいし、休みはゆっくりしたい。遊んだり、買い物したり、ダラダラしたい。金にそんなに困ってないならプライベートを削ってまで働かないな....


 なら、どうする?.....商人見習いになるか?


「なら、商人の見習いとかになれませんかね? 一応、異国での知識や見聞もありますし...」


「難しいですね。基本、商人は利益に敏いです。セイジロウさんは、異国の出身になりますしそれなりの礼儀作法も身に付けていますから、なろうと思えばなれるかもしれません。ですが、年齢を考えると難しいと思います」


「年齢ですか? まだ、働き盛りだと自負してますが?」


「商人見習いは基本若い時からなります。若い方は吸収も早く成長も早い。セイジロウさんもそれなりの基礎学力が高いと思います。今から、覚えても数ヶ月か1年もあれば生活には困らないだけの読み書き計算が出来るはずです。ですが、それでも難しいですね」


「ど、どうしてですか!?」

「商人が商人見習いを欲するのは、自身の利益にする為です。わかりやすく言うと、従順なる僕がほしいからです。自分好みに育て従えさせる部下を作るために見習いを作り育てるのです。セイジロウさんを仮に見習いに育てても見込みは薄いからです。読み書き計算を教え、この国の知識を与えればいずれ自分で商売をしてしまうでしょう。そうなれば、商売敵になってしまう。なら、初めから何も知らない子供を見習いにした方が良いのです」


 確かにそうだな。読み書き計算を教えてもらい、はいさよならとはならないだろう。


 まぁ、数年間は勤めても良いかも知れないが、こきつかわれるのはイヤだしな。

 この国の物価や物流の流れが分かれば、手を拡げないのは悪手の一つだ。やりようは幾らでもあるしな.....


 はぁ....何か色々と難しいな。やっぱり安易に考えすぎてたか? ここは日本でも無いし前の世界でもない。下手すれば、背後からブスリってのも、無くはない世界だしな。


 他に何か手はないか? やっぱり、持ち物を売ってその金で人を雇うしかないのか.....


「セイジロウさん、お茶でもいかがですか? さっきから、話してばかりで喉がかわいたでしょう?」

「えっ?...あぁ、そうですね。せっかく用意してくれたんですし、いただきます」


 アリーナさんが用意してくれたお茶を手にとり飲んだ。フローラさんとの話に気をとられて、アリーナさんにお礼を言うのを忘れたな...


 個室に入ってきたのは分かったんだけど、ちょっと俺も余裕なかったからな....


「美味しいですね、このお茶? 紅茶? ハーブティー? で良いんですかね?」

「はい、こちらはハーブティーですね。リラックス効果があるハーブティーですね。香りも良いです」

「はい、私もこのハーブティーは好きになりそうです。あとは、クッキーやケーキがあると嬉しいですけど」


「わたしもそう思いますが、甘味は高級なんで申し訳ありません」

 フローラさんが申し訳なさそうに謝罪した。が、すぐに俺も謝った。


「いや、こっちこそ不躾な事を言いました! ごめんなさい! 相談をしてる立場なのに....」

「大丈夫ですよ、相談も仕事の内ですからね」


 フローラさんってマジ女神! こんな美人が俺の相談に親身になって受けてくれるし、不躾な事を言っても寛大な心で受けてくれる。本当に女神かっ!


「あの、フローラさんは甘味は好きですか?」

「はい。わりと好きですよ。休日はお茶請けで食べますし」


 ヨシっ! なら、ここは異世界ファンタジー知識を使ってお礼プラス、好感度上昇を狙うか!


「もし良かったら、私の手作り甘味を食べてみませんか?」

「えっ? セイジロウさんは甘味を作れるのですか?」


「はい。異国知識ですが作れますよ。ご相談のお礼に用意します。」

「いえ、お礼は別に大丈夫ですよ。仕事ですからね。でも、甘味ですか......」


 おっ? 以外と食い付きは良いな。もう一押しか?


「では、こうしませんか? 私に読み書き計算を教えてくれる報酬として、私が甘味を用意します。もし、食べていただいて気に入らなければ次回以降は依頼無しということでどうですか?」


 どうよコレ!! 金が無いから物で釣る! まぁ、材料は自分で用意するんだけどね....


「依頼....ですか?.....分かりました、では個人的に依頼を受けましょう。本当なら、ギルドを通さない依頼は、不確かで安全性に問題がありますが、セイジロウさんは一応、信頼はあると思ってますし」


「本当ですか、ありがとうございます!」

「キャッ!!」


 と、思わずフローラさんの手を握ってしまった.....でも、柔かった....コレ、セクハラか?


「すっ、すいません! つい、嬉しくて....で、いつが良いでしょうか?」

「.....そっ、そうですね。なら、明後日でどうですか? 一応わたしの休日なので、その日を使いましょう。お互いに準備もあるでしょうから」


「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」

「はい。分かりました、少しでもセイジロウさんの助けになるなら」


 俺は、さっそく準備にかかる......わけじゃなく、ギルドの受付で食事処の依頼を受けた。だって金無いし、材料費を稼がなきゃなんないし....


 まだ時間は昼を少し回ったぐらいだ。ちょっと長く話過ぎてフローラさんには迷惑をかけたな.....


 すぐに、露店で簡単に昼食を取ってから、薪拾いと薬草採取にでかけた。


 そして、昨日と同じく夕方前に街に戻り、陽が暮れる頃にギルドの食事処でガッツリ働き、宿へと戻って夢の中へと出発して一日が終わった。

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