神隠しという名の異世界転移

紫煙の作家

第1話 ホームでボッチ

ホームでボッチ(改稿板)





 俺はだいぶ人生に疲れていた。社会に出て10年と少し、30代になってようやく社会の常識を理解した。


 朝起きて、身支度を整えて会社へ向かう。会社に着いてから今日のやるべき事を頭の中で組み立てていき仕事に取りかかる。


 1日の仕事が終わり、陽も暮れて夜空が広がる時間になって自宅へと帰宅する。翌日も、2日後、3日後も変わらない日々。 

 仕事もルーチンワークとなり特に変化もなく刺激もない。決められた事を決められた通りにこなすだけだ。


 俺はただ会社の歯車となるだけの為に生まれてきたのか? いつか結婚して子供が生まれて家族の為に働き、子供の成長を見届けながら平々凡々な生活をして、貯金と老後年金で余生を暮らし、いずれ死んでいくのか?


 そうじゃない暮らしもあるだろう。

 自分の才能に気づき才能を伸ばし自分なりの充実した暮らしをする人生も確かにある。


 別に、人の人生にとやかく意見を言うつもりじゃなし誰がどのように人生を生きようと別に構わない。


 ただ、俺は満足したい、納得したいだけなんだ。生きている、俺はちゃんと世界の中で生きていると実感したいだけなんだ。


 いつか寿命が来たときに"俺は人生を楽しめた、しっかりと生きた"って、思って死にたい。


△▽▽△△▽▽△△△△


 ガタンっ..ゴトンっ.........ガタン..ゴトンっ


 俺は呆然とそんな考えても意味のない、答えのない禅門答のような事を考えながら電車に乗っている。


 昔から冒険に憧れていた。ジャングルや古代遺跡を探検する映画やタイムスリップする映画、宇宙へと旅立つスペースファンタジー。


 アニメも好きだった。変身するヒーロー、巨大なロボットに乗り戦うヒーロー、ゲームの世界に入って冒険する主人公。


 想像の中ではいつも楽しかった。こんな世界があれば俺も行ってみたいと、観たり読んだりしていつも思っていたし憧れていた。


 ファンタジー系のゲームもやった。新作が出ればすぐに買って、仕事の休日はやりこんだ。


 現実から離れた場所にいきたかった。逃げたかった。


 もし、自分が求める世界にいけたら俺は人生をやり直したい。こんな、死ぬために生きる世界じゃなくて、生きていく為の世界に行ってみたい。


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「...客さん...お客さん、終点ですよ...」

「...んっ?...あっ...あぁ、すいません。すぐに降ります」


 俺はすぐに自分の鞄を持ちホームに降りて、備え付けのベンチに座った。

 電車は扉を閉めるとまた走り始めていく姿を見つつ頭を上に向けて、空を見上げた。


「あー、今日は夜空が綺麗だな....なんか、久しぶりに夜空なんてみた....な?」


 俺は、夜空を見ながらまだ眠りから覚醒してない頭を回転させた。

 俺が通勤してる駅のホームは空なんて見えない。いや、路線の上は屋根がないから見えるけど、ベンチがあるホームは屋根がついてる。

 明らかにいつもと違う風景だ、と理解した。すぐに回りを見た。そこは、いつもと違う場所だった。


「ここ、どこだ?.....終点って言って...たな。.....てか、なんで木が生えてるんだ?」


 俺が見ているのは、辺り一面に木ばかりが生えている森だった。いつか行った神社に生えていた御神木のような巨大な木が見渡す限り生えていた。


 そんな場所に俺は、小さなホームで一人取り残されていた。まずは、落ち着く為に鞄から小さな水筒を出し中に入ってるお茶を飲んで息を吐いた。


「....はぁ...まず落ち着け、俺。今何時だ....23時37分か...しかし、俺の乗ってる電車で終点はこんな場所じゃなかったはずだ。それに、間違えて乗った記憶もない....」


 ベンチから立ち上がり駅名を確認しようとホームを歩くがどこにも駅名を記した表示物がなかった。さらに、ホームにあるのは俺が腰かけたベンチと外灯が一つだけだった。


「なんか...やっちまった感じがするな...昔サイトで見た迷い込むと出られなくなる駅みたいだな....」

 そんな事を呟くと背中がゾワゾワっとした。


「っ!携帯はどうだ!?......圏外かよ....はぁ....どうする?朝まで待つか....つか、ホントに何もないな」

 改めて、ホームから回りを見渡しても何もなかった。

 人も自販機も改札口もトイレも....あるのはただ小さなホームとベンチと外灯しかなかった。


「こんな時はどうするのが一番良いんだ?助けを呼びに行くか?どこに?....公衆電話も無いしな、あれば連絡がついた...ついたのか?....なんなんだよ、いったい....俺が何した?ただ、家に帰ってただけじゃないか?何でワケわかんない場所で一人なんだよ.....なんっ!なんだよおぉぉーー!!」


 俺は夜空に散らばる星ぼしに向かって叫び、そのあとはベンチへと寝転がり現在の境遇に悪態を付きながら朝まで眠った。

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