第8話 誤解をとかんといかんな

 高齢の婦人は一人でトイレに入ったはずなのにトイレからは二人出てきたことに茂は戸惑いを隠せずにいた。

 さっきの婦人のその隣には少年のような顔をしたショートカットの女性が支えるように歩いて出てきた。



 頼子は茂に気が付きショートカットの女性の手を優しく振り払い茂に駆け寄った。

「ああ、将さん何処に行ってたんですか? 探しましたよ。朝ちゃんに会えたから良かったですけど」

 婦人の身勝手な言いように、少し眉を寄せた茂だったが、

「ええとワシはずっとここにおったが……」

 笑顔の婦人に強く言えず理不尽な言い分に遠慮がちに答える茂であった。




 トイレ内で本当の家族と会えたという事か?ではわしはもうお役御免よのう。




 茂はそう思い名残惜しく婦人を見た後、ショートカットの女性に目線を合わした。

「朝ちゃんじゃったかな? に会えたならもう安心じゃな、ワシはもう行くぞ」

 

 頼子を置いて歩き出した茂を慌てて頼子が追っかけて茂の服の裾をつかむ。

「将さん、何処に行くんですか置いて行っちゃ嫌ですよ」


 振り返るとショートカットの女性も困った表情を浮かべている。

「ええと」




 これはどういうことじゃ?

 家出でこの女性からも逃げたいという事だろうか、だけど先ほどはこの女性から助けられたと言っておったが。




 頼子に引っ張られるように歩き出した、頼子と茂は足を進めたとたん二人して躓く。

 慌てて追いかけてきた先ほどのショットカットの女性が二人を助け、茂に目線を合わせた。



「じいさんはこの電車に乗るのかい?」

 朝と婦人に呼ばれていた女性は息絶え絶えにそう告げた。

「そうじゃ」

 体制を立て直し茂は答えた。

「行き先は?」

 二人を助けた女性は笑顔で腰をかがめて目線を合わせて話しかけていた。

「この住所まで行きたいんじゃ」

 と、茂は住所の書いた手紙を見せる。


「私この後、予定無いから一緒に行くよ」

 少年のような顔の女性は笑顔で答えた。




 そりゃ行ってもらわんと困るよ。

 わしは何て至っても他人じゃからな、色々な責任は持てんしこのご婦人のご家族なら当たり前じゃ。



 

 そう茂は考えながら内心、頼子が家族と会えたことに安心しつつも別れの時が近づいていると寂しく思い始めていた。


「もちろん、朝ちゃんも一緒に行こう」

 

 頼子はにこにこしながら朝と呼ばれる女性を見る。もちろん茂の服の裾は掴んだまま。

    




 しかし、朝ちゃんってワシも呼んだらいいんじゃろか? 

 朝ちゃんはワシも一緒でいいじゃろか?   

 まあ旅には老人二人より若いもんが居てくれた方が助かる。

 

 しかし祖母思いよの。

 見知らぬワシの事も助けてくれるし。


 ワシ、もしかして自分のおばあちゃんの恋人と思われちょるんかの?

 その勘違いはちょっと恥ずかしいし何処かで誤解を解かんといかんな。

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