僕とクリスマスと苺のケーキ

つきの

僕と母と毎日の生活

 今年もクリスマスがやってきた。


 とは言ってもまだ、正確にはクリスマスイブだけど。


 ユウは人で賑わうパン屋の店先でショーウインドーを見ながら考えていた。

 この店はパン屋だけど、ケーキも少し置いている。

 そして、ユウは、このパン屋のショートケーキがケーキ屋で売っているケーキよりも好きなのだ。


 母などは、ふふふと笑って「それもユウらしいね」なんて言うけど、理由はわからないだろうなぁ。


 §


 ユウは26歳になる。

 地元の大学を出た後、やはり地元の小さな印刷会社に就職して4年になる。

 父はユウが小学生の頃亡くなり、母と二人暮し。


 ずっと働いてユウを育ててくれた母だけど、ユウが働き出したのと交代するように身体を悪くして、今は離れて暮らす祖父の世話に時々通いながら、合間に自分の病院通いの毎日だ。


 贅沢なんてしたことはないけれど、大学にいく為には母の収入や自分のバイト代だけではいっぱいいっぱいで奨学金制度のお世話になるしかなかった。

 おかげで大学生活を無事に過ごして卒業できたものの、正直、薄給で奨学金の返還を滞らないようにするのは結構厳しい。

 生活も母の病院代もかかるために余裕があるとは言えない。


 それでも他に借金もなく、今、屋根のある家に住み、少なくとも食べるものに困らずに生きているんだから有難い。


 そう考えて、ユウはちょっと可笑しくなる。

 これは母の口癖だ。

 いつも繰り返して言っているから、ユウも自然にそう思うようになった。


 母は結構、苦労人だと思うのだけど、そんな風には見えない。

 自分でも言っているけど、根が単純で明るいからかもしれない。

 勿論、落ち込んだりもするけれど、とにかく立ち上がってくる。

「だから凄いよ」というと、

「それは、あんたがいてくれたからよ」と

 母は決まって言う。

「母さんは弱虫だから、一人だったら潰れたまんまだったと思う。ユウがいてくれたから頑張ってこれたんだよ」って。


 だからって母がユウを家や自分に縛りつけようとすることはなかった。


 実はユウは本が好きで、出来ることなら何か物を書く仕事がしたかった。

 実は仕事の合間に密かに物語を書いて、ネットの投稿サイトに投稿したりもしている。


 母には黙っていたのだけど、ちょっとしたきっかけで知られてしまった。

 だけど、母はすごく喜んでくれた。

「ユウ、何かやりたい事、夢中になれることを持っているって素敵なことだよ。それは生きていく上できっと支えになってくれる」


 母も本が好きで、その影響で本好きになったユウだったから、母らしい言葉とも言えたけど、やっぱりそう言って貰えたのは嬉しかった。

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