ツッコミから始まる高校生活はいつオチますか?

小野こまっち

プロローグ 後悔先に立たず

 新緑が深まった5月の夕暮れ。放課後を迎えたこの藤丘ふじおか高校では校舎内から吹奏楽部のチューニング音とグラウンドから運動部の掛け声が混ざり合い、青春ってタイトルでも付きそうな音で溢れていた。


 本来であればこの俺、葵 京介あおい きょうすけは、このをBGMに颯爽と帰宅を決める予定だったのだが・・・


「ちょっと!何ボーッとしてるんですか?次の聴き込みに行きますよ!」


「お前は刑事かっ・・・。」


 俺が帰宅を決められず、聴き込みなんて訳の分からん事をやってるのは全部・・・。

 目の前にいる委員長こいつにツッコんじまったせいだ。



 時は遡り4月某日。藤丘高校の入学式を挟んで最初の授業日。といっても初めの数時間は説明やら、記入物やらのオリエンテーションだった。事件はそのオリエンテーション中盤の自己紹介で起きた。


「葵 京介っす。出身は藤丘中で・・・」

 生まれてこの方自己紹介のスタートしか切ったこと無かった俺はテンプレ通りの自己紹介を終えた。こっからは聞き役に撤するはずだった。はずだったんだよ・・・。


 こいつの自己紹介までは・・・。


「河津 咲蘭かわづ さくらです。出身は紙社中で、目標は伝説になることです!」


「いや駆け出しの路上シンガーかっ!」


 そう。俺は思わずツッコんでしまった。


 この時の空気は二度と忘れない。


 もし地上で絶対零度があるとすればまさにこの空気がそれだろう。


 追い討ちをかけるように河津 咲蘭は机に突っ伏して号泣。俺は『入学早々女を泣かせた最低男』としてぼっち生活を送ることになった。


 その後河津は我がクラスの委員長に就任した。直前の事件も相まって彼女が委員長に決まった時クラスは謎の感動と万雷の拍手に包まれた。

 一方俺はオリエンテーション終了後、担任の長泉 和泉ながいずみ いずみ先生より、ありがたーいお話という名の説教をくらい、かくして俺は高校生活の終わりを初日にに迎えたのである。


 後悔ってのは先に立たねぇ。いやマジで・・・。


 さらに気を使った長泉先生は、河津との話し合いの場を設けてくれた。

 といっても実際は俺が平謝りした謝罪会見の場だったんだが。


「本当に申し訳ありませんでした。」


「いやそんな・・・私もその驚いただけというかあまり男性に慣れてなかっただけというか・・・。本当もう大丈夫ですから・・・。」


「いやホントにすいませんでした。」




 こんなことがあった次の日には学校中に女の子を泣かせたサイテークソヤンキーとして悪名が広まった俺は見事に1匹狼。ひとりぼっちで高校生活を謳歌していたのだが、そんな俺をあんな厄介事に引き込んだのはなんの因果か委員長あの女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る