第5話 休日にて
お昼時のショッピングモールは人で溢れていて、フードコートは特に人が集中していた。こんな中で席が空くのを待っていたら昼も終わってしまうし、少し高いけど寿司屋にでも行くか。基本的に寿司屋は高いから人が寄って来ない。
学校の先生をしていて良かったと思えるのは、ゆーちゃんと一緒に居れるって言うのと給料が良いってことくらいだ。給料が高くて助かってはいるけどゆーちゃんが別の仕事をするなら俺も一緒に行く予定だけど。
「良いの? 高そうだけど」
「気にするな。俺は一応教師だからな」
なんてカッコつけてみるけど、俺が教師になった理由はどれだけ純情でも周りから見れば不純でしかないからカッコがつかない。ただ、そんな他人からの評判を気にしているような性格だったらもっとマシな教師になっていた。
「好きなの食って良いぞ」
俺の趣味と言えばバイクと車ぐらいしかないし、そもそも教師という職業は休みが基本的にない。他の職業もそうなんだろうけど。だから車もバイクもあまり乗れる時間が無いから貯金だけが溜まって行く一方だ。
その分をゆーちゃんや夏海に好きな物を買ってあげたり、文芸部のみんなで休みの日とかに遊びに行けるようにはしてあげたいと思っている。何もしてあげてない俺は、そう言うところで少しずつ返して行かないと貰ってばかりで何となく罪悪感が芽生えてくる。
「今度部活でミーティングやるから部員を集めておいてくれ」
「兄さんがミーティング? どういう風の吹き回し?」
「良いから。文芸部の部長として部員を集めておいてくれ」
夏休みの計画を立てないといけない。夏海と立花は間違いなく文芸のコンクールで賞を取れる実力があるから、他の部員の小説のチェックや添削をするために合宿を予定している。チェックも添削も俺じゃなくてゆーちゃんの仕事だけどな。
とは言っても、合宿中にも教師としての仕事は絶対に付いてくる。合宿までに片付ければ全然問題なく行けるはずだけど。
「ご馳走様でした。美味しかった」
「そりゃ良かった。せっかくだしドライブでも行くか」
「良いの? 兄さんとドライブに行くのすげえ久しぶりだから楽しみっ!」
ドライブって言っても、ただただ綺麗な景色を出来るだけ速く走り抜けるだけだ。出来る限りアクセルを踏み込みこんで、出来る限りブレーキを踏まない。出来る限りエンブレのみの減速でカーブを曲がる。せっかく好きな車を買ってるんだから走ってやらないと可哀想だ。
俗に言うスポーツカーってやつで、普段から使う目的でもあるから五人乗りのドアが四つのセダンタイプを買った。それでも踏めば速い。三千五百回転から切り替わりでものすごい音が鳴り響く。『んばぁあああああああああ』みたいな音が街中に鳴り響く。教師としてのモラルなど一切ない。俺は公私混同しないタイプなんだ。ちなみに俺はずっと真面目だ。道を踏み外したことなど一回もない。
「じゃあ行こうよ!」
「ちょっと待っててくれ。電話して来る」
夏海を車に残してゆーちゃんの携帯へ掛ける。いつもなら留守電に切り替わるギリギリのところで出てくるのに、今日は一回目のコールが鳴りやむ前に出てくれた。
「もしもし? 海くん?」
「今からドライブ行くんだけど一緒に行こ」
「う~ん………まぁ良いや。安全運転なら行くよ」
「じゃあ今から迎えに行く」
夏海が車の中で蒸し焼きになる前に車に戻らないと。エアコン付けても良かったんだけど、最近ハイオクガソリン高くなってるし。弟が熱中症になるリスクよりも燃費を気にしてしまった。
「すまん! 待たせた……?」
「あ、先生! こんにちは!」
深々とお辞儀して元気に挨拶できるのは素晴らしいことだとは思う。いやそうじゃない。何で立花がここに居るんだ?
「立花? 何でここに?」
「一人でぶらぶらしてたら先輩の姿が見えたんでお話しに来てたんですよ」
休日に一人でショッピングモール。ちょっと心配になる。
「じゃあ私は帰りますね」
「待て。立花も一緒に来るか?」
「でも、私が居たら邪魔になりますよ?」
人への気遣いや優しさには百点満点を付けてあげたいけど、もっと自分を大切にすることを覚えないといけない。何かがあれば真っ先に自分を犠牲にしてまで助けようとする性格だろうし。このことに関しては俺が教師として教えないといけない。だけど俺は公私混同しないタイプだから次の部活で言おう。
「ほら、乗れよ」
「………分かりました」
せっかくの休日なんだし、普段は行けない遠い所まで遊びに行きたい。俺だって人間だ。仕事を気にしなくて良いって言われたらとことん遊びたくなってしまう。
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