第3話 色んな色と優しさの温もり
普通に生活していると、景色を意識してみることがほとんどない。風で揺れる木々の騒めきも、木漏れ日の温かさも。電車が通った時の規則的なリズムも、朝日が反射してキラキラと光る川も。なんてことない景色も指揮して目を向けることで綺麗だって感じることが出来る。それだけで何もかもが新しく見えて面白く感じる。青原先輩の言っていた色の話も、意識していないことに目を向ける事こそが最大のヒントだった気がする。
「色……」
青空はどこまでも続く綺麗な海みたいな色。手を伸ばしたところで届くはずのない透き通る青。何となく悲しい感じがする色。それでも、悩み事を消し去ってくれそうな青色。
夕焼け空は空が火事になったみたいに真っ赤な色。何もかもを照らし出してしまいそうなほど眩しい赤。何となく怖い感じがする。不安って言った方が近いのかな。それでも背中を押してくれそうな夕焼け。
曇り空はどこまでも続く白色。今にも泣きだしそうな寂しい白。何となく泣き出してしまいそうになる色。きっと涙の色は青空と同じで綺麗な青色なのかも知れない。その涙が溜まって海になっているなら、青空と海が同じ色なのも納得がいく。
山の青々とした緑はどんな悩みでも優しく包んでくれそうな優しい色。何となく迷いこんでしまいそうになる。悲しいこと、苦しいこと、辛いこと。解決はしてくれ無さそうだけど、ずっと一緒に居てくれそうな緑色。
色に対しての第一印象はネガティブな物ばかりだ。私の心が歪んでるからなのかな。そうだとしたら嫌だな。意識しないことに目を向けるって事は、自分自身の悪い所も見えてしまうって事だもんね。青原先輩もこんなこと思ったりしてたのかな?
「あ……」
ぼんやり考えてたら学校に着いてしまった。今日も桜のところに居るのかな。一回見に行ってみよう。もし居たらこの悩みも相談してみよう。きっと先輩なら私の知らないことをいっぱい知ってるから、この悩みも解決してくれるはずだ。
「立花さん! おはよっ!」
いつも通り桜の木の下に居て、私に気付くと手を振って大きな声で呼んでくれる。どんなに綺麗な色よりも元気を貰える気がする。こんなに明るい笑顔で名前を呼んでくれる人が眩しすぎて、太陽みたいな感じで温かい。
「色の悩み……僕も最初はそうだったし凄く悩んだよ」
「どうやって克服したんですか?」
「兄さんじゃ困らせてしまうと思ったから結愛姉に相談したんだよ。そしたら一瞬で治った」
「私も天野先生に相談した方が良いんですか?」
「僕がやって立花さんの悩みが解決するか分からないけどやってみよっか?」
「お願いします」
天野先生はどうやって先輩の悩みを解決したんだろ? 一瞬で治ったって言ってたし、きっとカウンセリングとかじゃないもっと凄いことなのかも知れない。魔法使いだったりして。
「ぁ……」
何が起きたのか分からない。今の状況を冷静に判断できないっていうか頭が回るはずもないって言うかいきなりすぎてどう反応するのが正解なのか分からないって言うか。
「大丈夫。立花さんがそんな子じゃないって事は僕が保証してあげるから」
男の人から抱きしめられるのって初めてかも知れない。頭を撫でられるのも多分初めてかも。いや、お父さんが何回か撫でてくれた気がするけど。それでも、それでも……
「あれ? 大丈夫? 立花さん?」
顔が熱い。ふらふらして立ってるのも辛くなるくらいだし、心臓がやけにうるさい。本当にこれで治ったの? やっぱり天野先生にやってもらった方が良いのかな? 先輩じゃちょっと刺激が強過ぎる。
「天野先生の所に行ってきます……」
「そっか、やっぱり結愛姉じゃないとダメか……」
なんか悔しそうな表情をして桜を見上げる先輩を背に、ふらふらの足取りで天野先生の所へと向かった。
「天野先生は文芸部の部室に居ますよ」
職員室じゃないんかいって心の中で突っ込んでから文芸部の部室に向かうことにした。多分、青原先生も一緒に居るような気がする。二人きりの時間を邪魔してしまうのは罪悪感で押し潰されそうになるくらいだけど、今回は許して欲しい。
「天野先生……」
「立花さん? どうしたの?」
さっきの出来事を全て話しつつ青原先生に申し訳なさそうな視線で謝っておく。状況を理解した天野先生は顔を真っ赤にしてプルプル震えている。何か気に障る事でも行ってしまったのかな?
「そんな前のこと覚えてくれてたんだ……お姉ちゃんは嬉しいよっ!」
「ゆーちゃんの弟じゃない」
「ゆーちゃん?」
「………天野先生の弟じゃないでしょ」
それから、さっきして貰ったことを天野先生にもして貰いたいって言うと、先生は快く承諾してくれた。やっぱり天野先生は良い先生だ。こんなことお願いしてもしてくれない先生が大半だと思う。
「大丈夫だよ。桜ちゃんにはお姉ちゃんが付いてるからね」
何だろう、凄く懐かしい感じがする。人ってこんなに温かいんだ。こんなにも優しい温かさがあるんだ。小さい頃の私は泣き虫で、その度にお母さんに慰めてもらってたんだけど、その時の温もりとよく似ている。
「お姉ちゃん……あっ! すいません!」
授業中に間違えてお母さんって呼んでしまうアレみたいな恥ずかしさが一気に襲ってきた。青原先生が羨ましそうな視線をこっちに向けてくるのを気にしつつ必死に謝った。
「ごめんなさいっ!」
「ううん、困ったらいつでも相談しに来てね。お姉ちゃん待ってるから!」
勢いよくお辞儀をして部室を飛び出した。青原先生と天野先生は幼馴染で、小さい頃から先輩も一緒に居たから天野先生も兄弟みたいな感じなのかな? 羨ましい……幼馴染なんて居たのは覚えてるけど小学校に上がる前に転校しちゃったし。
薄っすら覚えてるのは、私よりもいくつか年上だって事だけだ。それ以外は本当に覚えていない。色々と話を聞けば思い出すと思うけど。もう一度会えるなら会ってみたいな。顔も覚えてない仲の良かった人と。
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