面白かったです!
とても私の好みに合う作品でした。良い出会いに感謝!
「オールドマップ(古地図)」というノスタルジーを感じるタイトルの響きの通り、古き良きライトノベルを彷彿とさせる内容です。
かつてライトノベルを楽しんでいた世代には懐かしく感じるものがあるのでは。
主人公のリリアは元気いっぱいの少女。
歌声が魔法の詠唱のかわりになるという不思議な能力の持ち主です。
彼女は幼馴染のユウタや他の仲間たちとパーティを組み、ダンジョンに行くことになります。
そこで出会った『黒い影』が、すべての始まりとなります。
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軽い文章で、物語がテンポよく進んでいきます。
序盤は登場人物や世界観の説明があり、主人公がダンジョンに行くことになる経緯が描かれています。
このダンジョンの描写がとても秀逸。
ダンジョン全体の入り組んだ雰囲気や薄暗い雰囲気が手に取るように伝わってきます。
まるで自分が主人公と一緒にダンジョンに潜っているみたいで、とてもドキドキします。
特に川が出てくるシーンでは、洞窟内の空間の広がりを感じたり、音の反響や水の流れる音まで聞こえてきそうな臨場感があります。
また、登場する魔物たちの容姿がかなり独特で、リアルなほど不気味に描かれており、戦闘シーンでは緊張が走ります。
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序盤は和気あいあいとしていますが、『とある出来事』により雰囲気が一変します。
主人公のリリアは仲間たちとはぐれてしまい、その後さまざまな困難が待ち受けます。
何度もくじけそうになりながら、彼女は必死で前へ進もうとします。
そんな彼女の前に現れたのは『黒い影』。
人の形をしたそれは、果たして敵なのか、あるいは。
物語が進むにつれ、『黒い影』の正体が少しずつ明かされてゆきます。
それは、とても危険な存在であり、同時に哀しい存在。影が人の形に戻ろうとするシーンがあるたびに心が痛みます。
リリア自身も影になる呪いを受け、解除の方法を必死で探ることになります。
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本作は主人公の一人称で書かれているため、主人公であるリリアの心情が痛いほど伝わってきます。
彼女はごく普通の少女であり、とても優しい心の持ち主。
そのため、自分に呪いをかけた『黒い影』にさえ心を寄り添わせることも。
リリア自身も過去の出来事で心に傷を負っていて、涙無くしては読めないシーンも多いです。
とくに終盤ではエピソードごとにこみあげるものがあります。
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そんな彼女を支えてくれたのは「歌」と「仲間」の存在。
リリアの歌は彼女自身を勇気づけ、前へ進ませ、また、すべての悲しみを浄化してゆきます。また、彼女の幼馴染であるユウタの歌がリリアを勇気づけるシーンもあり、心にしみます。
リリアと仲間の絆はとても強く、だからこそ皆がリリアを守ろうとするシーンは胸に迫ります。
手を握ると握り返してくれる仲間のいる安心感。
そんな仲間たちとの経験を経て、リリアが精神的に成長してゆく姿が丁寧に描かれているところに好感が持てます。
かと思えば、ちょっと気になる恋愛模様があったり。
いろいろな要素で楽しめる作品だと思います。
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この作品の最大の特徴は『歌』をモチーフにしているところだと思います。
作品の中にさまざまな挿入歌が登場するのですが、その歌詞がどれも素晴らしい。
しかも、歌詞が各場面とリンクしているので、ますます歌詞が強い意味を持って胸に迫ります。
挿入歌の歌詞はこちらにまとめられているので、興味を持った方はこちらからのぞいてみるのもいかがでしょうか。
『オールドマップ 挿入歌』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892578523
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わくわく、ドキドキ。
経験と成長。
笑顔と涙。
歌と魔法。
冒険と恋愛。
仲間たちと幼馴染。
悲しみと、それを乗り越えて前へ進む勇気。
いろいろな要素がぎゅっと詰まった素敵な物語です。
ぜひあなたも、古地図を片手にこの世界を冒険してみませんか?
牧畜と歌を生業にするリリアはシリアー族の17歳。
強くもなければカッコいいわけでもなく、本当は里から出たくなかったのに、健気に現実を受け入れ冒険者として頑張るところから始まります。
と書くとなんだか暗〜く…ありません!明るくちょっとワガママなリリアと仲間たちの日常がすぐそこに感じられ、いつの間にか一緒に冒険している気分になります。
派手な魔法でズバッとバトル!ではなくて、ともすれば単調になりがちと思いきや、作者様は卓越した文章力でどんどん連れて行ってくれます。
美しい歌詞と重なり合う歌声がじんわり響き、読んだ後に優しい気持ちになれる作品。人間関係に疲れた人にこそオススメです。