7 戦闘、そして違和感
「シンディー! 頼む!」
「ほい来たー!」
ジュンの声にすぐさま反応したシンディーの
彼女が切りつけたのは、青い毛並みの狼に似た
群れで行動するんだろう、私達が出会ったのは3頭。うち1頭はジュンが仕留め、あと残り2頭だ。
シンディーの
シンディーはその飛び抜けた身体能力で、危なげなく後ろへ飛んでいた。その足が地面に付くよりも早く、左手で
その
そこへジュンの
どうと倒れる巨体。
痛いよね、苦しいよね。
「リリア!」
シーナの声に押されるように、一気に間合いを詰めて
吹き出す血飛沫を避けて、残りの1頭へと向き直る。
大丈夫、とどめはちゃんと刺せた。
もう1頭はユウタとシンディーが応戦している。
隣で呪文の詠唱に入るシーナの声。
シーナの右手が
筋肉の動きを制御できなくしてしまったんだ。
それでも
ジュンが前に出て、首と足の付け根辺りをなぎ払った。血飛沫が飛ぶ。
甲高い悲鳴。
違う、そこじゃないのジュン。
痛みに逆上した
痙攣を押さえつけるように四肢に力が入ったのが見え、全身が粟立つ。
「シーナ、離れて!」
シーナの手をつかみ、後方へと退避しようとした瞬間、
狙いはこっちだ!
ダメだ、間に合わない!
怖いと思う間もなかった。
シーナを背に庇い、
お願い神様助けて!
真っ赤な口と、鋭い牙が視界を隠し――唐突にそれは横へと飛んだ。
「ユウタ!」
ユウタが危ない!
考えるより先に身体が動く。心臓が急激に早鐘を打った。
痙攣のために立ち上がり損ねた
反射的に血飛沫から身を引いた。
「ユウタ!?」
「無事だ」
短い答えとともに、
あぁ、良かった…。
「全員無事だね!?」
ジュンの確認に、それぞれ無事を報告する。
良かった、みんな無事で本当に。
わたしも、もうダメかと思ったけど、ユウタのおかげで命拾いしたみたい。
「ユウタ、ありがとう」
「いや、俺こそごめん。危険な目に合わせて」
「何言ってるの、ユウタのせいなわけないじゃない」
なんだろう、時々ユウタって、わたしの身を案じすぎちゃうとこある。
それは嬉しいしありがたいけど、わたしが危険な目に合ったことを自分の責任だと思っちゃうのって、違うんじゃないかなぁ。
「いや俺、ファルニアを守るよう約束して来たしさ」
あれ?
ユウタったら、ファルニアだって。
パーティ組んでから急にリリアって呼ばれるようになって面食らったけど、今度はファルニアって呼ばれるのも変な感じ。
どちらもわたしの名前に違いはないから、好きな方で呼んでくれていいんだけどね。
そういえば、なんでユウタはリリアって呼ぶようになったんだろう? 里ではリリアなんて呼んだことなかったくせに。
ユウタだけだったのにな、ファルニアって呼んでくれるの。
ちょっと後ろめたそうに下を向くユウタ。
なに気にしてるんだろ、長との約束?
あれって、そんなに気にすることなのかなぁ。こういう戦闘でだったら、仕方ないと思うんだけどな。
それよりも、ユウタはユウタの身を守らないと。
「ユウタって時々お母さんみたいね」
それにユウタはハイハイどうもとかなんとか小さく言って、とにかく無事で良かったよと続けた。
うん、ほんとにユウタのおかげ。ユウタも無事で本当に良かった!
「リリア、ありがとう」
シーナがわたしの肩を優しくなでてねぎらってくれる。
にっこり笑いかけてくれたシーナは、そのままジュンの元へ。
「今回は大活躍だね、リリア。お疲れ様」
「リリアおつかれー!」
ジュンとシンディーも口々にそう言ってくれて、やっとほっと一息つく。
浮かない顔をしているのはユウタくらいだ。
変なの。
「リリアって、蟲も魔物も嫌いで怖がるのに、
ジュンがそう言いながら、シンディーに同意を求めた。
ちなみにシンディーも蟲と魔物は苦手だ。
ただ、仕留めるとなると、たしかにシンディーの手に余るところはあるのかな。猛毒を使うときは別だけど、危ないからあまり持ち歩いたりはしてないし。
どっちかというと、足止めとかの方が得意な感じ。
でもこれは、向き不向きがあるし、しょうがないよね。
「ほんとだよねー。急所を狙って、一撃で仕留めるもんね~」
「それはほら、里で家畜を絞めたりしてたから…」
家畜は乳を与えてくれ、そして肉を与えてくれる。
大切に大切に育ててくれた主に、食肉として殺されるなんて未来を、家畜は想像できるだろうか?
殺してしまうのはかわいそうだ。でも、そんな綺麗事では生きていけないのもまた、陸の孤島のような山岳地方の里で育ったわたしやユウタはよくわかってる。
だからせめて、一番苦しみが少ない方法で絞めるのだ。
里だったら、歌を歌いながら魔法で眠らせたり、リラックスさせたりしてから頚動脈を切る。苦痛が長引かず、眠るように息を引き取れるように。
出来る人は、痛覚無効の魔法をかけてあげる人もいる。
「
そっか、もしかして歌いながらそれやってみたら、動きが鈍るかもしれないし、苦しみも少ないのかもしれないな。
今度試してみよう。
なんだか、家畜を追っていたのが遠い昔のような気分になってたな。1年前までそうしてたのに、そんなことも忘れてたなんて。
「へえ、リリアはそんな感覚なんだね。やっぱり、そうやって生活してた人の経験は強いよね。俺真似しようと狙うんだけど、全然当たらないし」
ジュンは両手を広げて、にこにことそう言った。
うん、相変わらずそういう爽やかなとこ、かっこいい。
「でも、ちょっと妙だよね」
「だな。なんでダンジョンに
絶命している3頭は、魔物ではない。魔物っていうのは、もっと禍々しい姿かたちをしている。
それに、魔法生物だから、魔力の備わっているわたしやユウタ、シーナには魔物の感じがわかるんだよね。
この
でも、初めて見る
生息数が少ないのかな?
でもどうしてダンジョンにいるの?
「
不服そうに言ったシンディーに、ジュンも頷く。
帰ったら報告しといた方がいいねとジュン。そうだよね、ここに鉱石採取に来る人はまだまだいるだろうし。
そんなことを思っていると、目の前になにかがぼとりと落ちてきた。
「―――ッ!?」
む、蟲ッ!! しかも大きい足いっぱい気持ち悪ッ!!
出かかった悲鳴を飲み込み、慌ててユウタの背中に張り付く。
なんだよと邪険そうに言ったユウタの声は、今度はシンディーの悲鳴で遮られた。
「蟲が集まってきてる―――ッ!」
気がつくと、無数の蟲が集まり始めていた。主に、絶命している
やだ、気持ち悪い。
「なるほどそうじ屋ってわけか。とりあえず、ここは離れて進もうか。帰りがちょっと心配だけど、リリアとユウタに頑張ってもらおう」
ジュン…どうしてそんなに楽天的なのよぉ。
うう、でもがんばらないとわたしだって怖いし。
「おい、リリア。ちょっといい加減離れろって」
「だって、危険な目に合わせないように守ってくれるんでしょ!?」
「そういう意味じゃねぇよ!」
ユウタがわたしを引き剥がそうとするけど、も、もうほんと無理だから!
「あはは、しょうがないね。リリアとシンディーの盾になって先頭を頼むよ」
「ジュン、お前なぁ…」
恨めしそうにユウタはそう言いながら歩き出す。
さすがに歩いてる人にしがみついてるわけにもいかないから、わたしはその背を追う格好だ。
青ざめてるシンディーの手を取り、一緒にユウタを追う。
「世話の焼ける…」
「いいから、あたしたちの世話はユウタの仕事だから!」
「そうよ、とにかく女の子は守るものよ!」
大きなため息が前から聞こえてきたけど、そんなのは無視よ無視。
後ろでジュンがおかしそうに笑っているのも聞こえるけど、それも無視。
っていうかジュンって笑い上戸だよね、ほんとにもう! 面白がっちゃって!
とにかく早く鉱石採取終わらせて帰りたいよ…はぁ…。
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