七姉妹会と告白
第66話 三人でのまちあわせ
二月十五日、土曜日の街中はがらりと雰囲気を変えていた。
昨日までなら街中にピンクやハートで溢れているようなバレンタインフェアが行われていたが、もうそんな飾り付けはない。
しかしそれでも休日であるため人は多い。しかも前日はバレンタインというせいか、特にカップルが多いように舞は感じた。
今日舞は、昴と勇一郎とともに二人の妹である静香へのプレゼントを買いに行く。
それをきっかけに勇一郎は昴と和解し、舞は昴に告白をするというのが二人の目標だ。
告白という事に逃げ出したくなるが、勇一郎だって勇気を出す。それに舞は応えない訳にはいかない。
ショッピングモール内の待ち合わせ場所にて、背の高い昴はすぐに見つける事ができた。
彫りの深い顔に物憂げな表情、シンプルで落ち着いた服装を着た彼は特別目を引く。高校生とは思えないような大人っぽさをかもしだしていた。
昴は一人だけで、勇一郎はまだ来ていないらしい。
舞は声をかけようとしたが、その前に自分の格好を確認する。ブーツに汚れはないし、厚手のタイツも新品で傷みもない。ニットとショートパンツは冬らしい素材で気合いが入りすぎず動きやすく、ショート丈のコートでカジュアルにまとめた。
一応告白のために悩んだ格好だが、三人で買い物するとして動きやすさを重視した結果だ。
鞄の中にはチョコレートだってある。
桃山のアドバイス通り、保冷材も入れている。
服装、持ち物の後に耳当ての存在を思い出す。それはクリスマスに昴からもらったものだ。電車に乗った時には外したが、せっかくだから今はつける事にする。
なんだかんだで、まだ昴に使っている所を見せた事はない。
そして鏡を見て、おろした髪とやや化粧をした顔が崩れていないか確認し、ようやく昴の元へ向かうのだった。
「昴先輩」
声をかけると昴はびくりと反応した。いつも堂々と振る舞う彼にしては珍しい反応だと思い、舞は首をかしげる。まるで別人ではないかと確認するかのようなを反応だ。
「舞……だな」
「そうですけど、どうしました?誰かに声でもかけられましたか?」
昴の容姿で街中に立っていれば、異性や勧誘から声をかけられてもおかしくはない。だから挙動不審になったのではないかと舞は考える。
「いや、なんでもないんだ。それよりその耳当て、付けてくれているんだな」
「はい。自転車に乗る時とか、冷えなくていいです。ありがとうございます」
「……気に入ってくれたなら、何よりだ」
恥じらいつつも微笑む舞に、昴は普段の調子を崩されていた。反応も少し鈍くなる。
その妙な昴と、緊張から己の鼓動が高鳴るのを感じた舞は、早く勇一郎に来て欲しいと思うのだった。
■■■
「お待たせしました。迷ってしまって」
勇一郎は結局約束より遅れて現れた。それでも全く気にした所がないのは、舞と昴を二人きりにできたためだろう。どこか一仕事終えた感がある清々しい笑顔だ。
しかし舞は恨みがましい視線を勇一郎に向けた。いざ二人きりになったとしても、妙に緊張してしまうだけだ。
「それで、まずはどこに行くんだ?」
挙動不審だった昴も勇一郎の存在により落ち着きを見せる。そして今日向かう店について尋ねた。
「まずは兄さん。静香の写真を見ませんか?」
「えっ?」
「兄さんは今の静香を知らないでしょう?そんな状態でプレゼントを選ぶのは難しいはずです。あの子はもう、雰囲気も変わってしまいましたから」
まずは静香の趣味を知る事が重要だと、勇一郎は携帯を取り出した。きっとその中には彼と静香がやりとりしたメールや写真が入っているのだろう。
「舞さんも見てもらえますか?」
「はい。私は構いません。けど……」
舞は心配そうに固まっている昴を見た。
昴はきっと、静香が記憶を失ってからの姿を見た事がないのだろう。
昴は彼女をそっとしてやりたいという思いから、もう彼女の目の前に現れないと決めたのだ。下手に写真を見て思い出すより忘れた方がいい。しかし勇一郎はそう考えてはいない。昴に静香の写真を見せる事により、トラウマを少しづつ乗り越えさせようとしているのだろう。
「……兄さん。見るのが怖いですか?」
「いや、そんな事は……」
「兄さんにとってこのまま忘れる事が一番楽な事はわかっています。けど、人間完全に忘れる事は難しいんです。静香の記憶だっていつかは蘇るかもしれない」
昴は恐れている。今静香の姿を見て、妹に会いたい気持ちが再び芽生えてしまうかもしれない。しかし会えば再び静香を傷つけてしまう。
一方、静香とメールなりで連絡を取っている勇一郎はいつか妹に記憶が戻るのではないかと感じていた。
そうだとしたら昴の気遣いは意味がない。
「静香は恐らく無意識に変わろうとしていると思います。記憶がなくても、過去の弱い自分から変わろうとしているんです」
舞が聞いた話では、以前の静香は甘えた所のある少女だったという。しかし渡米してからの静香は自立した少女になったと、彼女の母親達から聞いた。
「いつか静香は帰国し、兄さんに謝りたいと願うかもしれません。その時に兄さんは逃げるんですか?」
静香と同様に、変わりたいと願った勇一郎だからこそわかる事だ。
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