第37話 プレゼント

二次元と言えば青島。萌え美少女イラストの紙袋を使うと言えば青島だ。


「なんだかすごく嫌な予感がするんですが」

「何を言う。人のプレゼントを見る前からケチをつけて」

「じゃあ開けますよ。見ますからね」


諦め半分で舞は紙袋から包みを出す。それは丸く大きい。しかしさらに薄紙に包まれていて中身が何なのか、予想もつかない。


「フィギュアとかじゃないんですね……」

「人にやれるような精巧なフィギュアが千円そこらで買えるはずがないじゃないか」


そういう問題ではない。

しかしフィギュアでないなら良かったと薄紙の包みを取る。

包みから現れたのは柔らかくふわふわした物体だった。

ぬいぐるみだ。


「あ、まりもうさぎだ」


黄木が舞の抱えたものを見てそう言った。


「マリモウサギ?」

「アニメ・マジカル妹マリーの中に出てくるキャラクターだ。作中の主人公のマリが気に入っているキャラクターで、最近リアルでもグッズ化がさかんだ」


まるまるとした体は確かにマリモと言えなくもない。その体に耳と、うさぎらしい顔があって可愛らしい。

きっと青島に言われなければ大きいお友達御用達アニメ発祥のキャラクターとは気付かないだろう。

しかも可愛いだけでなくさわりごこちもよく、舞はぬいぐるみを揉む。


「かわいい……しかも何この感触、癒される……」

「そうだろう。本来予算オーバーするところだったがなんとかポイント割引が使えた。いい買い物をしていいプレゼントになった」


ほぼ男のクリスマスパーティー内でぬいぐるみを選ぶのはどうかとも思うが、まりもうさぎは七姉妹会の皆が知っているキャラクターらしく、皆も羨ましそうに舞とぬいぐるみを見ていた。


「青島先輩、いい物をありがとうございます。いただきますね」

「あぁ」


その後、黄木は筑紫からの妹の出てくる小説セットを貰った。筑紫は赤坂からのマフラー。赤坂は橙堂からのヘッドホン。橙堂は桃山からの有名菓子店のお菓子詰め合わせ。桃山は黄木からのタオル。

そして青島は緑野から手袋を貰ったのだった。


「なんだか皆無難ですね……」

「思い通りにプレゼントが渡るのなら、皆もっと趣向をこらしたものをプレゼントしていたわよ」


桃山がそう言って笑う。

男ばかりの中女子が一人という環境でプレゼント交換をしたら、男女両方が使えるものにしなくてはならない。だから無難なものになるという事だろう。

それでも橙堂のヘッドホンや青島のぬいぐるみなど、予算以上の品を値切ってプレゼントにしたものもいるのだから工夫はされている。そんな彼らならば、贈る相手が決まっていればさらに工夫を凝らしたプレゼントをするだろう。


「そういう訳だから、舞ちゃん。これは私からの個人的なプレゼント」

「えっ」

「多分プレゼント交換で私のものを舞ちゃんに贈る事はできないだろうから、別に用意していたの」


見た目可憐な美少女が笑顔で舞にプレゼントを差し出す。それに舞はどきりとした。

どきりとしたのは予想外のプレゼントのせいなのか、桃山の可憐さのせいかはわからない。


「いいんですか?貰っちゃって」

「いいのよ。私の自己満足なのだから。中身は私とおそろいのエプロンだから、今度一緒にお菓子でも作りましょう?」


大きな包みの中は純白のエプロン。おそらくは桃山の事だから手作りで、舞の体にぴったりで、そして少女趣味だった

それでも舞にはプレゼントも一緒に料理する事も嬉しい。


しかしそれを見て、周りの男達も黙ってはいなかった。


「舞ちゃん。これは僕のプレゼントなんだけど、受け取ってくれるよね?」

「筑紫先輩も?」

「中はレッグウォーマーなんだ。足を冷やすのはよくないし、その健やかな足で踏んで欲しいから」


後半さえなければ舞も素直に喜べるプレゼントだった。どうやら筑紫も個別で舞にプレゼントを用意していたらしい。

しかしそれを見て周囲はさらにあわただしくなる。


「舞、これ帽子だから。別に普段のお前なら変装用帽子なんて必要ないけど、俺と一緒に歩く時は変装したほうがいいし」


そして慌てプレゼントを差し出したのは橙堂だ。彼も抜け駆けしプレゼントを用意していて、それを被って変装が必要なほど一緒に歩いて欲しいらしい。


「なにそれ橙ずるい。おれも舞ちゃんにプレゼントあるよ。入浴剤セットだけど、今度一緒にお風呂に入ろうね」


今度は黄木からの無邪気な笑顔のお誘いだが、そのお誘いは舞も断るしかない。しかし押し付けられるようなプレゼントは受けとる事になった。


「妹尾はモテモテだな。プレゼントはこの袋を使えばいい」

「あ、青島先輩。ありがとうございます。……って、さっきの萌えイラストの紙袋じゃないですか」

「同人誌即売会帰りの歴戦の戦士のようだ」


青島が渡した紙袋に舞がもらったプレゼントを入れれば、袋からはみ出しそうな程になる。それを見て何故か青島は満足そうだ。


「それはともかく、先輩方、ありがとうございます。まさか個人的にプレゼントまで貰えるとは思ってませんでした」

「いいのよ、皆自己満足なのだから」

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