第27話 クリスマスパーティ

「えっ?」

「七姉妹会のクリスマスパーティーは成績不振者は出席できない。だから成績を聞いたんだ」

「え、えっと、時間差で話が繋がりましたけど、なんで急にその話題に?」

「なんだっていいだろう」


そう言った青島の顔には無表情の中にわずかな焦りが見えた。

この感覚は少し前に感じた。赤坂に兄弟がいるかを聞いた時の周囲の反応に似ている。

また舞が地雷をふみかけて、それをフォローするために話題を変えたのだろう。

ならば舞もその話題に乗る。


「しかし七姉妹会でクリスマスパーティー、するんですか……」

「あぁ、去年もしたし今年もする。だから皆お前の成績が落ちないよう必死に勉強を教えたという訳だ」

「単に妹に勉強を教えるシチュエーションを味わってるだけかと思った……」


青島もそれは否定できなかった。

しかしゆるい組織だと思っていた七姉妹会にもそんな決まりがあるという事は、案外しっかりしたクラブ活動なのかもしれない。


「それで、私が参加していいんですか?そのパーティー」

「あぁ。振られたばかりの妹尾には丁度いいだろう」


青島はいつも通り気を使わない言葉を浴びせる。それに舞はダメージを受けた。

パーティーに誘われるのは嬉しくもあるが、そういう気づかいがあると素直に喜べない。


「な、七姉妹会以外で参加するのは私だけですか?」

「そうだが?」

「私はまた、ありとあらゆる妹を集めた盛大なパーティーを行うものかと」

「……残念ながら、ここまで七姉妹会に関わり七姉妹会から気に入られた女子は妹尾くらいだ。お前は誇っていい」

「変態を許容し変態に好かれた事では誇れないです」

「でも行くだろう?」

「……桃山先輩の作ったご馳走が出るのなら」


すっかり桃山に餌付けされた舞だった。

それにわずかに青島も微笑む。


「……そうだな。桃山の料理はうまい。俺もあいつの作るクレームブリュレは好きだ」

「クレームブリュレ……それは確かにおいしそうですけど、青島先輩は意外な物が好きですね」

「糖分は脳の栄養だ。意外という事はない」


特に恥じて誤魔化すわけでなく、堂々と彼は自ら甘党を認めた。

その時、舞は廊下の掲示板にある張り紙が目についた。よく知る名がそこに記されていたので目についたのだった。


「あれ、試験順位なんてもう出ているんですね」

「あぁ」


貼り紙とは、期末試験の順位が記されたものだった。

七海学園では個人の成績を個人に知らせるが、校舎内に成績優秀者の名前のみ張り出される。

それを見て上には上がいると知り、更に勉強に励むようにという事だろう。

その上位のみのランキングは、科の学年によるものと全学科の学年によるものとでわけられていた。


「あ、理数科二年じゃ本当に青島先輩がトップなんですね」

「『本当に』とはなんだ。疑っていたのか?」

「えぇまぁ。で、学園全体になると……十位!?」


舞は思わず大きな声で驚いてしまった。

理数科一位というだけでも優秀すぎる人物であるはずだ。しかしそんな人物であっても学園全体で考えれば十位とランクは下がってしまう。


「学園全体のランキングでは、どの科でも行う共通の教科の試験で順位が決まる。理数科は名前通り理数系教科には強いが他の教科は弱いし、理数科独自教科の試験もあるからな」

「あ、そっか……」


青島は淡々と解説をした。試験教科の数からして科により違うのだ。一教科で一位であっても学年全体・全教科で一位を取れるとは限らない。


「学年ランキングで上位に行けるとしたら、共通科目の一致から有利な普通科か、全体的に偏差値の高い特進科だろう」

「そういえばそうですね。普通科はとくに変わった教科はしませんし」


試験教科も科により違うもので、普通科が一番科目が少なく共通と重なり有利と言える。それ以外の科では専門的な授業の試験が多く、共通科目の試験にだけ時間をかけられないという事だろう。


「あの、それじゃあ私が今までスルーしてきた全学科一位の人が一位であるのは、至極当然の事なんでしょうかね?」


震える指で舞は学年一位の名前を示す。


『二年上位成績優秀者』

赤坂昴・普通科

緑野勇一郎・特進科

三井日向・特進科


それらの文字はあまりにも信じられない事で、舞は今まで話題には出せなかったが、ついに突っ込む。


「赤坂は入学当時からずっと学年一位だ。確か入学式では新入生代表もやってたな」

「あんなに毎日遊んでるのに……」

「確かに。出来が良すぎるのだろう。本来上位は特進科が独占するものなのだから」


確かに赤坂の後の順位の生徒はほぼ特進科だった。

特進科と普通科では偏差値がまったく違うはずなのに、普通科の赤坂の一位は異常である。


「あの人、なんで普通科にいるんでしょう……」

「特進科にだけは入りたくなかったのだろう」

「なんで? 入れるなら入った方がいいと思いますけど」


普通科と特進科では偏差値と同様に環境も違う。競争に勝ち抜ける頭脳を持ち、他に専門的に勉強したい科目もないのなら大学進学に備えた特進科に入るべきだ。

しかし青島は答えなかった。


「でもそういえば赤坂先輩って教えるのもうまかったです。本当に頭のいい人は凡人にもわかるように教えられるってのは本当ですね」

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