第28話 七人目
「……そんな赤坂にあれだけ好かれているお前が、自分を凡人だというのか?」
「凡人ですよ。ただ私が妹として十六年間普通に生きて来ただけで、あの人達のツボにヒットしただけなんですから」
舞は生まれた時から圭の妹だった。その生き方から自然に妹らしさを学び、今それが出ているのだろう。赤坂達はそれを気に入っているだけだ。
「さすがに兄志望者に五人も好かれているのはどうかと思うがな」
「五人……もう七姉妹会に会員はいませんよね?」
舞のような妹が好きな五人と二次元妹が好きな青島。七姉妹会はそれで六人だけと考えるが、七姉妹というだけあってしっくりこない。あと一人会員がいる気配を舞は感じていた。
しかし青島はなかなか答えず、目を反らし考えこむ。その反応はまだ会員がいるという事だろう。
「……大丈夫だ。七人目、最後の一人はお前のような妹を好きになったりはしない」
結局観念したかのように青島は告げた。
「最後の一人っ?……やっぱりいるんですね。でも好きにならないって、その人もまさか、二次元を?」
「いや、三次元の妹が好きな奴だが、ハイスペック妹萌えというやつだ」
「ハイスペック……」
よくわからないが、どちらかと言えば七人目は青島に近い人間なのだろうなぁ、と舞はぼんやり考える。そういう人物である方が彼女は安心できた。
「ハイスペックって何ですか?」
「スペック……能力が高いという事だ。容姿に優れ成績が良く、性格もいい。運動も出来て、礼儀作法も完璧。兄を『兄様』なんて呼ぶような妹の事だ」
「わぁそれはどう足掻いても私にはなれませんねぇ」
棒読みで言って、舞は複雑になった。これ以上兄志望につきまとわれくらいなら平凡であるほうがいい。しかし平凡と人に馬鹿にされているようで微妙な気持ちだ。
「その人もパーティーに来るんですよね?」
「あぁ。だから彼について話しておく。パーティーには終業式後で皆で集まり、会場に向かう」
「会場って、どこかのお店ですか?」
「いや、その七人目の家だ」
そういう事もあり、三次元女子との会話が苦手な青島も七人目について仕方なく告げたのだろう。舞からしてみれば知らない人の家というのは居心地が悪いはずで、それなら今伝えておいたほうがいい。
「ちなみに各自予算千円以上三千円以下でプレゼントを用意し交換する予定だ。プレゼントを忘れるな」
「……このパーティー、私や妹候補がいなくても男子だけでやるつもりだったんですか?」
「勿論だが?」
男だけでクリスマスパーティー。男だけでプレゼント交換。それは非常にしょっぱいものではないかと舞は思う。
しかし男達は気にした事はないようだ。
二人で理数科から普通科へ入り、いつものように美術室の扉を開ける。
中には赤坂だけが居た。電気ケトル片手にもち、もう片方の手を青島と舞に振った。
「あぁ、今日七姉妹会に出席できるのは俺と青島だけのようだな」
「じゃあ帰ります」
部屋に入って早々、舞は踵を返す。桃山がいないのならば今日のおやつはない。つまり七姉妹会に顔を出す意味はないと考えたのだった。
「ま、待て! せめて会話はしていけばいいだろう!」
「だって話しこんで帰りが遅くなると寒いし暗いし。今日は自転車だし」
「今日はクリスマス会のお知らせもあるんだぞ!」
「あ、それはもう青島先輩から聞きましたからもういいです」
必死に引き止める赤坂に、さらりとかわし帰ろうとする舞。
そしてその言葉通り、舞は帰ってしまった。女子に帰り道の事を言われたら紳士な彼には無理強いはできない。次に青島へと期待の目を向ける。
「……お菓子がないなら俺も帰る」
「待って! 帰らないでえ!」
最愛の妹候補に菓子以下とされ帰られてしまった赤坂は、すがりつくように青島を引き止めた。
友人がうざいとは思いながらも青島は表情変えない。変わらないのだった。
「青島だけは一緒に居てくれ! 舞に帰られた今、お前にまで帰られたら寂しさで死んでしまう!」
「……人間、寂しいくらいでは死なないだろう。寿命は縮むかもしれないが」
「縮む! 俺は長生きしたいんだ! ほら、食玩の魔法少女マナちゃん人形をつけるから!」
「茶ぐらいなら付き合ってやる」
なんとか菓子以上の餌を出し、青島を引き止める事に成功した。菓子のオマケについていた幼児向けの魔法少女の人形を無表情で眺める。これは前から彼が集めているものだ。
その横で赤坂は緑茶を出す。その表情は嬉しそうだ。寂しがりやなのは本当らしい。
「妹尾にはクリスマスパーティーと七人目の事を話しておいた」
報告として、青島は簡単に告げておいた。赤坂は自分の口から語りたいと思っていたのかもしれない。しかし話さないのも不自然だと思ったので、言わざるを得なかった。
「……そうか」
赤坂はそれに小さく頷いた。それを気遣って報告してくれるだけで、彼にはありがたかった。
「『七人目』の事、お前が話していないのなら俺が話すべきではないと思ったが。クリスマスパーティーでどうせ妹尾と顔を合わすのならば、喋るべきと思った」
「ありがとう。気を使ってくれたのだな」
「……俺はここを気にいっている。黄木さえ現れなければ最高の場所だ。失う訳にはいかない」
青島は彼にしては珍しく冗談のように言って、緑茶を飲んだ。
二次元を愛す彼とはいえ同じ妹を愛す者との交流は嬉しく、些細な事でこじれては困ると考えているのだろう。
「『あいつ』には妹尾の事を話したのか?」
「いや、舞の事は『最近手伝ってくれている女の子』としか伝わっていないと思う。まぁ、知ったところで『あいつ』はわざわざ見に来る程ではないとは思うが」
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