第15話 妹の恋を応援する兄

「大丈夫よ。私と橙堂は応援するわ。妹に恋人ができる事は寂しいけれど、それも妹の成長だもの。見守りたいの」

「そうだな。兄妹だっていつまでも一緒にはいられないんだ。それなら他の信頼できる男に側にいて欲しいもんだ」


桃山に続き橙堂までがそんなものわかりのよい事を言う。そもそも舞は妹ではないのだが、その突っ込みだけは今しても意味がないだろう。舞はそういうものなのかと感動する。反対する赤坂達がおかしいのかもしれない。


「という訳で舞ちゃん、詳しい話をしてみない?」

「聞いてくれるんですか?」

「ええ。さっきも言ったでしょう? 私は妹と恋の話をしたかったの。これでも私は男性だし、橙堂なんて言い寄られる事に慣れているから的確なアドバイスができると思うわ」


ただ桃山の夢を叶えるためではない。舞も恋愛的に頼りになりそうな先輩二人からアドバイスが貰えるのならそう悪い話ではなかった。


「じゃあ、相談に乗ってもらっていいですか?」

「勿論よ。何でも聞いて」

「実は今度後輩と出かける事になったんですけど……」


そうして舞は桃山と橙堂に事情を話した。

相手は中学の後輩であること。模試で七海学園普通科にA判定が出たから映画がてら在校生である舞に学園の雰囲気を聞きたいということ。舞は彼の事を最近になって少し意識していること。そして一番迷っているのは着ていく服だという事。


「……なるほど、つまり舞ちゃんはいいなと思ってる男の子とデートだけど、彼氏ではないしそこまで好きでもないからどれだけおしゃれをすればいいのかわからないのね」

「あっ、はい。そうなんです。あんまりデートらしい服を着るのもどうかとおもって」


さすが見た目は女性なのか、桃山は見事に舞の気持ちを言い当てる。自分でも明確にできない気持ちを見抜かれ、舞は驚いたと同時に彼を信用する気になった。


「確かに悩み所よね。その後輩とはしばらく会っていないの?」

「はい。中学では仲良くしていたんですけど、私が高校に上がって忙しかったし、その子……黒川君も受験がありますから、連絡を控えていたんです」

「……橙堂はどう思う?」

「その黒川とやら、確実に舞に気があるだろうな」

「奇遇ね。私もそう思っていた所なの」

「あぁ、普通学校繋がりで縁が切れた奴なんてよほどの事がなきゃそのままだ。なのに受験前、合格圏内に入っただけで再び連絡をとって、学校について聞きたいからって映画に誘うんだから」

「付き合えるかどうかは舞ちゃんの心次第という事でしょうね」


聞いた話から二人は推測する。それが一理あるため舞は聞き入った。


「舞ちゃんはどうなの? 黒川君と付き合いたいって、ちょっとでも考えているの?」

「いえ、最近年上に嫌な思い出が作ってしまったので。年下のがいいんじゃないかって程度です」

「まぁ……何があったかは知らないけれど、きっと辛い事があったのね。かわいそうに」


年上の嫌な思い出とはずばり七姉妹会の事なのだが、桃山達は見事なまでに気付かないでいた。


「お前、付き合う事を考えるならそいつの事はわりかし好きなんだろ。どこを気に入ってるんだ?」


気だるそうに橙堂が尋ねる。舞はそれを聞いて少しだけ悩んだ。そして答える。


「……優しい所でしょうか」

「優しいって、バカ丸出しな発言だな」


綺麗で品のいい唇からつむがれる毒々しい言葉に舞は青ざめた。

『優しい』だなんてありふれてはいるが悪くない長所であるはずだ。


「好きな女に優しくするのは当然の事だ。まっさきにそれを言うなんて、嫌われたらそいつに何の魅力もなくなるって事だろ」

「あ……」


それは思わず納得してしまう話だった。

好意を持った相手に優しくするのは当たり前の事で、そんな交際相手をありがたがるのはおかしい。


「それをよりにもよって橙堂が言うのはどうかと思うのだけれどね」

「は? 俺は優しくないだろ」

「どうかしら。舞ちゃん、他に黒川君の好きな所があるのではないの?」

「あ、ええと、……じゃあ可愛い顔、とか」

「男子中学生の可愛い時期なんてあっというまよ。高校生にでもなればむさくごつく汚くなるのだから」

「……それをよりにもよって桃山が言うのはどうかと思うぜ」


どう見てもツンデレな橙堂に、今現在も愛らしい桃山。その二人が自分の事を棚に上げて黒川を評価する。しかしその評価は厳しく、相談というには話題が妙な流れになってきた。


「……まぁ、優しさの次に顔が来るようならたいして好きじゃないだろ。他に何もないのかよ」

「ピアノが弾ける、とか……」

「ピアノなら私も弾けるわ」

「俺だって弾ける」


舞が語る黒川像に張り合うように桃山と橙堂が言った。

やはり二人の態度はおかしい。応援してくれると言っていたのに、今は舞に諦めさせるような事を言う。


「あの、二人は応援してくれているんですよね?」

「も、もちろん!応援するわよ!舞ちゃんの恋だもの!」

「お、応援するに決まってんだろ。つい兄という立場から黒川を厳しく見てしまうだけというか……」


なぜか二人とも動揺した様子で返す。舞は怪しく思うが、彼らは兄目線で語るため変な所があってもいつものことと気にしないでおく。


「そうだ、課題で作った服があるのだけれど、舞ちゃんはそれをそのデートで着てみない?」

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