七姉妹会は妹を愛す

kio

七姉妹会との出会い

第1話 七海学園の七姉妹会


学校に生徒が多ければ多いほど変な生徒、変な集団、変な噂が生まれるものである。

私立七海学園高等学校は様々な科を併設するマンモス校だ。

その学園の噂の一つに、『七姉妹会』なるものが存在し、『困っている女子を助けてくれる』というものがあった。


その噂を知っている妹尾舞(せのおまい)は、藁にもすがる思いでそれにかける事にした。

大人や公的機関に頼れない問題に舞は困っていたのだ。七姉妹会が何だか知らないが、今以上に悪くはならないのなら相談をしてさっさと解決をしたい。

しかしだからといって見知らぬ集団の中に飛び込むような無茶は舞にはできず、七姉妹会についての情報を集める事にする。ひそかな噂であるはずなのに女子を中心に聞き歩けば、噂集めにさほど苦労はしなかった。


・七姉妹会とは姉妹という名なのに男ばかりの組織らしい。

・成績優秀者や一芸に秀でた者のみが在籍するらしい。

・美男揃いらしい。

・特殊な人脈があるらしい。

・会員の仲はあまり良くないらしい。

・活動場所は放課後の普通科棟美術室らしい。

・無償で依頼解決するらしい。

・女の子からの依頼は断れないらしい。

・とくにツインテールの依頼人に弱いらしい。


などという、まったく正体の掴めない噂だ。しかし念のため舞は長い髪をツインテールにし、普通科棟美術室の扉を叩き、返事があったので開いた。


「やぁ、七姉妹会にようこそ。ところで君、素敵なツインテールだな」


噂は真実だった。


七姉妹会らしき、長身の美男がデッサン用のパイプ椅子に腰掛けている。そして女子生徒でありツインテールの舞を見てすぐさま褒めた。

しかし美術室内には彼一人。彼が七姉妹会員だとして、他に会員がいる様子はない。


「おや、君は普通科の一年生か。だったら俺と同じ科だ」


いきなりの来客に動じる事はなく、男子生徒は舞に声をかけ続けた。目ざとく校章を見て学科と学年を言い当てる。

一方舞は動揺している。目の前の男は意思の強そうなはっきりした目に、すっと高い鼻に薄い唇。髪は少し長いが、手入れをきちんとしてあり清潔感がある。

こんな正統派美男子、滅多に見ない。優雅な佇まいにも思わず見とれてしまう。


「俺は赤坂昴。普通科二年生だ」

「あ、赤坂、先輩……」

「いや違う。お兄ちゃんと呼んでくれ」

「は?」


赤坂の美しさにぼんやりしていた舞は急激に現実に戻される。

今の言葉は何だったのか。年上の生徒には先輩、もしくはさん付けで呼ぶのが一般的だろう。なのに『お兄ちゃん』。できれば緊張している舞を和ませる冗談だと思いたい舞は、恐る恐る呼んでみた。


「え、ええと、赤坂、お兄ちゃん?」

「違う! 苗字でお兄ちゃんと呼ぶ妹がどこにいるんだ! 『昴お兄ちゃん』だろう!」


赤坂が美術室に響くほどに声を張り上げて、それがマジギレである事に舞はやっと気付いた。

そして第一印象で盛り上がった恋心や何かはあっというまに冷めていった。本来の目的に戻る。


「……赤坂先輩。一年の妹尾舞です。今日は七姉妹会に相談したい事があって来ました」

ひとまず赤坂の奇妙な言動はスルーし、舞は自己紹介をしてみることにした。彼の事も『赤坂先輩』と呼ぼうと思う。お兄ちゃんだなんて絶対に呼部つもりはない。


「妹尾舞か……良い名前だ。『せのお』と『まい』という、『妹』の読みが二つも入っているのがいい」


赤坂はうんうんと頷き、勝手に人の名前で盛り上がる。やはり彼は妹に対して異常な愛情を持つ人物のようだ。


「私から来といてなんですが、帰っていいですか?」


これ多分役に立たない、ていうか関わりたくない、と考えた舞は踵を返し帰ろうとする。しかしその前に赤坂はドア前へと素早く回り込んだ。出口を封じられる。


「まぁ待つがいい。舞も話すだけ話してはどうだろう。相談があるのだろう。俺は少しでも君の力になりたいんだ」


赤坂は相変わらずの芝居がかった口調で正論を言う。いきなり下の名前で呼ばれ、舞は距離が近付いたように錯覚してしまう。そして偽りのなさそうなまっすぐな態度と言葉には気を許してしまう。

しかしこの人物はどこかおかしい。悩み相談とはいえ、これ以上密室に二人きりでよいものかと悩んでしまう。せめて他にも常識人なメンバーがいればいいのだが、


「今日七姉妹会に出席しているのは俺だけだ。というのも七姉妹会はそう円満と言い難くてな。皆気まぐれに出席するものなんだ」

「あ、噂通り不仲なんですね」

「うむ。皆妹の事が好きすぎるため、討論し衝突しがちなんだ。意見のあう奴とは仲がいいのだが」


舞の僅かな期待は消え去った。七姉妹会の不仲とはただの妹好きの方向性の不一致らしい。予定以前にこれでは他メンバーにも期待はできない。


「でも大丈夫だ! 俺達七人は妹を愛する気持ちは同じだ!」


赤坂の熱い言葉。そこから他のメンバーも妹好きである事、しかも七人もいる事に舞は驚いた。そして赤坂×7を想像し、げんなりとした。


「もしかして七姉妹会の七って、七人の妹好きによる妹のための会だからですか?」

「そうだ。よくわかったな。姉妹とあるから姉も含むつもりだったが、結局各種色んな妹好きが集まっている」


そこから赤坂はちょっとしたうんちくを語る。七姉妹というのはギリシャ神話で、プレアデスとは和名で昴という。などと赤坂は続けたが、もはや舞にはどうでもいい話だった。

とりあえず記憶すべき事は赤坂昴がリーダーであるという事、他に六人いるという事だ。


「ちなみに俺は『妹は側にいてくれればいい派』だ」

「そうですか……」

「だから、妹力溢れる舞の助けになりたい」

「……だから私を、というか妹を助けてくれるんですか?」

「そうだ」


舞は複雑な気持ちになった。

確かに彼女はどちらかと言えば童顔で小柄で、放っておけない妹タイプだ。真実は見た目に似合わぬほどドライな少女なのだが。

見た目だけで七姉妹会が助けてくれるというのならそれを利用すべきだろう。

しかし、本当に妹っぽいだけで助けてくれる人間がいるのだろうか。

嫌な予感がするが、困り事を前に迷ってはいられない。


「じゃあ話します。協力できないと思ったら聞かなかった事にして下さい」

「あぁ、できる限り協力はするし、秘密は厳守しよう」


その事に安心し、舞は赤坂に促されパイプ椅子に座る。どこからか優雅なカップに入った紅茶まで出された。

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