最終話 付き合ってくれませんか?

「な、な、な……。いきなり家に来て何を言い出すんですか!」

「楓花。ご両親はいないのか? 彼氏はできたから転校はやめるように言わないと……」

「か、彼氏って! あなた、自分で何を言ってるかわかってます!?」

 楓花は真っ赤になっていた。

 頬を染めるとかではない、真っ赤。それ以上にないほど赤い。

 目が回っているようで、頭から湯気が出ているようで……照れているのだろう。

 楓花にしては、感情表現が豊富で、春太もつい笑みがこぼれてしまう。

「分かってるよ。だから、家に来たんじゃないか」

「ええっと……もう、何がなんだか……」

「楓花」

「……なんですか。私は今それどころでは」

「好きだ」

「~~~~ッ! な、な、な、な……な! 一度ではなく二度まで……、なにを考えているんですか、あなたは!」


「何度もでも言う。俺は、楓花が好きだ」


「……いきなりやってきたと思ったら、それはないですよ……」


「ご、ごめん。でも、正直に言うべきだと思って」


「――なんで。なんで、好き、だなんて。今更、言ってきたんですか」


 楓花の顔は赤くなっていた。突拍子もないことを言われたから、動揺しているのか。

 ずっと無表情だった楓花は……もういない。

 そこにいるのは、一人の恋する乙女。風見楓花がそこにはいた。



「俺さ、ずっと知らなかったんだ。香織が俺のことを好きだったとか、羽籠が色々頑張っていたこととか、さ」


「…………」


 楓花は口を開かない。春太の衣服、髪などからは水滴がポタポタと落ちていく。

 大雨が降っているのに、楓花の耳元には雨粒の音など届いていない。

 聞こえてくるのは、春太の声……のみ。


「でも、それがなかったら俺は楓花と話すことなんてできなかったしさ――」


「楓花を好きだって気づくこともできなかったから……」


 再び、顔を赤らめてしまう楓花。

 悟りを開いたかのように、楓花に思いを伝え続ける春太。

 向かい合うにしてはバランスの取れた二人。

「あの……春太」

 落ち着きを取り戻したころに、楓花が口を開く。

「……私でいいんですか。いきなり、その……キスとかしちゃう人間ですよ?」

「いいよ。……いきなり、キスしたのはよくないけど」

「ですよね……。反省してます。でも、いいんですね」

「だから、いいって言ってるだろ」

 雨が降りしきる中、家の玄関の前で。

 今、二人は自分たちの思いを伝えあう。

 景色も相まって、様子はもう結婚式みたいであった――。

「私と――」

「付き合ってくれますか?」

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