第60話 幻影(8)

「……どういうこと?」


「店長にも、ずっと嘘ばかり付いてきました。でも、もう良いんです。過去は変えれないみたいですし。さっきだって、店長と彼が楽しそうに話しているのを、隣で聞いていたんです。静かになったから心配になって覗いたら、膝枕なんてしちゃってて、もう店長は彼の物なんだって。彼氏からも別れようって連絡が来て、もう独りなんだって。耐えれなくなって店を出たんです……。そして知らないふりをして、店長と会う自分が馬鹿みたいで……」


「独りぼっちなんかじゃないよ!私はあなたと一緒に居たい。ずっと一緒に美容師をやっていきたい、大好きな親友だもの!金魚すくいの彼だって、あなたが望むなら私は……。他の人を探す!だから、もう泣かないで」


「……ずるいですよ。……何で怒らないんですか。私は店長が誰かと付き合うのも嫌なんですよ?きっと彼と喧嘩してなかったとしても、店長に彼の連絡先を教えていなかったかも知れないんですよ?」


「……それだけ必要としてくれるなら、嬉しいよ。私のことなんかより、あなたに笑っていて欲しいもの」


「……馬鹿みたい。最後まで優しくしないで下さい」


「最後なんて言わないで、一緒に居るから。ね?」


「ううん、最後なんですよ……」


 後輩がゆっくりと、私に掴まれている腕から包帯を外し始めた。

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