第52話 小さなアパートで大きな勇気を(9)

 あのときと同じように、ううん違う。今回は私だけが彼と再会出来て、幸せの中にいる。必死に悲しんで私の膝を濡らしている後輩に、何だか申し訳なくて仕方が無かった。


 どうにかしてあげたい、でも……


 どうしても、あの姉と鋏を振り上げた後輩を思い出してしまうと、躊躇してしまうところがあった。あんな無礼な人を好きになるのも不思議だったけれど、後輩の彼氏と会ったことがないから強く言えなかった。優しい人とか、惚気話しか聞いていない。でも、あんな女性を好きになるなら、少しおかしいとも思ってしまった。


 もし、あの人が後輩の姉に取られちゃったら、私は……


 気を許したような真っ赤な彼の顔が、届かない遠くにある気がして、急に寂しさが寒気となって後輩にしがみ付いた。


「ごめんね、私だけ呑気に浮かれちゃってて……」


「それは良いんです!私の失恋なんかより、店長の恋の方が大事なんです……。私は店長に幸せになって欲しいんですから……。でも……。でもー!」


 ジタバタと体を捻りながら子供のように喚く背中を、撫でながら自分に言い聞かせていた。私がしっかりしないと、今度こそ。

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