第51話 小さなアパートで大きな勇気を(8)

「このような感じで如何でしょうか?」


 二面の鏡をしっかり持って、後輩の姉を後ろから包んでいた。きっと最初から後輩に何かしら言いたかっただけで、髪型は何でも良かったのだろう。鏡を見ようともせずに面白くなさそうに頷いていた。


「お代は結構ですので、この度は大変失礼致しました。またのご来店心よりお待ちしております」


 美容院のドアを開けて、小さく丸まった背中が遠くなるのを、鼻で深呼吸しながら見送った。そして、裏口へ続くドアを開けた。


「もう大丈夫よ。叔母様もありがとうございました」


 優しい笑顔で、ゆっくり頷いてくれる叔母様を見て、何だか認められた気がして嬉しかった。


「店長!あの、私……。その……」


 まだ俯いたまま泣いている後輩を前にして、友達ではなく店長として、厳しく怒らなければいけなかった。相手が誰であれ、鋏を振り上げるなんてことは、あってはならない。きっと、先生ならそう強く叱ってくれると思うから。


「……もう。相手が誰であろうとも、怒って危害を加えようとしたら駄目なんだからね……」


 分かっていても、やっぱり強くは言えなかった。理由も分からずに、気付けば私も泣いてしまっていた。


「うう。ごめんなさい……。ごめんなさい」


「ううん。私こそ、ごめんね。もっと早く助けてあげれたのに……」


「店長……。ごめんなさい……」


 私がしっかりしないと。そう思えば思うほど、何だか虚しくなってしまい。子供のように声を濁らせて謝り、泣き付いてくる後輩を、泣きながら抱きしめることしか出来なかった。

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