第23話 ユニコーンの盾
「あの、それでお話というのは」面談と呼ばれたものの本題になかなか入らずくるくるしているローブに少し急かす。
「なに、話というよりは贈り物じゃ。新参の騎士にジェリスヒルからな」ぴたりと動きを止め、「これ」とお付きの役人に促すと円盾を一つ持ってきて寄こした。
「これは……」
「十字架を背景にユニコーンが描かれている、コーエン家の紋章じゃ。先日サルベージで回収された盾なのじゃが、鍛冶ギルドで溶かしてしまうより其方にと思っての」
コーエン家はジェリスヒルの同盟先として軍を共同展開することがままある。恐らくはその同盟軍の戦いで散った兵の遺品。
アイナが受け取ると、ちょうど拳から肘まで程度を覆う大きさ。バックラーに分類される円盾で片手にレイピアを握る彼女にとって似合いの装備だった。左腕を違和感なく上下しているのを見ると重さも問題ないようだ。
「お気遣い感謝申し上げます。この盾を残した者のためにも奮迅する所存です」
「ふむ。拾い物で感謝されるのじゃからいい商売じゃの我ながら。本当はテスタメントでもと思ったが、それでは贔屓が過ぎるのでな」
だがそれに返事はいかず、彼女は何か気付いたようにぴたりと動きを止め円盾の表面をじいと見つめた。
どれだけの殺意をこれで防いだのか――。鋼に幾筋も刀傷が入り、矢を防いだのであろう穿ったようなへこみも一か所ではない。
「傷が気になるか?そのくらいの打ち直しは大した時間はかからん」
袖口が大倉庫の奥、いやその向こうの鍛冶ギルドを指しているのだろう。この程度の盾の修繕、考えることもないといった様子だ。
しかし彼女の思慮はそこではなかった。
「何かを願うことも出来ない間に、この兵士は」
死に際に強い意志と魔力で遺すテスタメント。しかしその生成も叶わなかった大多数の者たち。彼らは果たして未熟な弱者だったのか。魔法の効果がない有り触れた回収物だった?これほど攻めを浴びて戦った者にそんな侮辱や失望を浴びせることが何故出来ようか――。
そんなような憐憫に溢れる顔をしていた。
「祈る時間もなく死ぬのも居るし、命など要らんと戦い死に切れんかったのも。世界は色々じゃ。のう?」
心境を察したローブはくるりとまた回転し、これ見よがしにヨカゼの正面に止まり腕を組む。
刑軍の3億の剣士は首を傾げ「あんたが耽ってんなよ。あんたの付ける数字は金額だ。勲章じゃない」と尾を踏まれた狼のように睨みつけた。
「ヨ、ヨカゼさん!」
都市の中枢を担う権力者に噛みつく囚人、しかしそこから口論になる時間は許されず値踏みローブの傍仕えが知らせを持ってきた。
「ローブ殿。新たな影が現れました」
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