囚人街の懲役剣士、釈放目指して令嬢騎士と旅をする ダンジョン・オブ・ザ・デッド前編
宵闇 長門
第1話 地下牢
それは俺の値段じゃない。俺が殺した奴らの値段だ。
つまりあの戦場はやかましい市場で、俺は必死で後払いの買い物をしてたわけだ。
男はこの石壁に囲まれた独房に入れられて数週間は経っているのだろう。伸び放題の髭やぼさぼさに散らかった髪、蝋燭の火に照らされ煤けた頬。地下牢特有の湿ってかびた様な臭い。
気のない表情や、呪いの杖を向けられている状況にも関わらず体の反応の鈍い様子が時間の経過と疲労を窺わせる。
「筑摩江や芦間に灯すかがり火と、共に消えゆく我が身なりけり」
都市の領主がそう唱えると振りかざした杖の先端が青白く輝き始める。その光は徐々に指向性を持ち、目の前の拘束された男に当てられた。
拘束されている若い男は上着を奪われ、両腕を鎖につながれていて身構えることすらできない。男はされるがままその光を浴びた。唱えられた呪いを遮るものは何一つない。
杖から生み出される光は熱くもなく痛みもない様子だったが、次第に拘束された男の肌にはその青白い光をなぞるようにして黒い痣が現れ始める。数十秒後には首筋から心臓の上を通り胸下にかけての大きな黒い痣が出来上がった。
まるで巨大な獣に引き裂かれ残った爪痕のような痣――。
それでも疲れ果てている男にさして動じる様子はなかったが「これだから貴族は嫌いだ」とだけつぶやき、領主はそれに応じるように話した。
「刻爪の呪い。己が責務と我が命に反したときは、その胸に刻まれた爪がお前の心臓を引き裂くだろう。だが捨てたものでもない、これで少なくともこの狭苦しくて薄暗い場所からは出られる。明日喰われる豚でももう少しましなところに住んでいるぞ。……こういっては何だが、お前には同情も哀れみも持っているのだ」
領主は淡々と続ける。
「お前の罪状は我らが都市同盟への反逆。懲役金は3億ゴールドと裁定が下った。お前は今日より『刑軍』として罪を償うことになるが、全額を支払うことができればその呪いの痣は消え失せる。さすればお仲間の残党の所へでも真の故郷だというニホンという異世界へでも、どこへなりと消えるがいい。」
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