バーチャル墓標ではホログラムじじいが見張ってる

ちびまるフォイ

最高にゴージャスな死後を応援します!

「先に言っておくが、ワシはびた一文遺産を残さんぞ」


「「「 えっ 」」」


父の言葉にかいがいしくお世話をしていた息子たちは顔がひきつった。


「なんじゃ、ワシが倒れてからというもの

 やたらに媚びへつらっているようじゃが、

 ワシの遺産なんぞお前らにくれてやるつもりはないからな」


「な、何言ってるんだよ。俺たちが遺産目的だとでも?」

「そうよ。私達はお父さんが心配という一心よ」


「でもまぁ……年をとったら金の使いみちなんてないだろう?

 だったら、余った分を税金やら募金やらで他人にゆずるよりも

 顔の知っている俺達に渡したほうが……」


「使うもん!!!」


父はけして譲らなかった。


「とは言ったものの、さて何に使ったものか……」


「親父、終活豪華クルーズツアーなんてどうだ?」


「ワシの足が悪いことを知ってての嫌みか。

 それとも海にさっさと落として遺産をもらおうって魂胆か?」


「ちがうって!」

「お父さん、豪華老人ホームで迎える素敵な終活プラン、というのもあるわ」


「ワシがどうしてこんな山奥でひとり暮らしていると思う?

 他人にいちいち干渉されたくないからじゃよ!!!」


「お、怒らないでよぉ」

「父さん、いっそここに冷凍睡眠カプセルで30年後に……」


「そうしてワシが眠っているうちに殺そうというつもりじゃろうが!」


「なんも言ってないって!!」


「……ダメだ。もう疑心暗鬼になってきたようじゃ。

 明日が来ることすらワシを殺すための作戦にすら思えてくる。

 もういい、自分で考える!!」


一人残された父親はひとりでパンフレットを見た。

その中でひときわ目立つ広告を気に入りさっそく電話をかけた。


「ご連絡ありがとうございます。ホログラム墓標サービスでございます」


「無料でサンプルを見せてもらえると聞いたんじゃが」


「ええ、こちらにお持ちしました」


スーツの男は病室に平べったい板を持ち込んだ。

スイッチを入れると、ホログラムで墓標が現れた。


「いかがですか? バーチャルの映像なので、こんなこともできますよ」


別のスイッチを入れると墓標の石がさまざまな形に変化する。


「これならお墓を怖がるお孫さんも楽しめるというわけです!」


「お墓ではしゃぐバチ当たりは連れてきてほしくないがな……」


「ちなみに、ご自身の姿も写せますよ?」

「え?」


スイッチを入れると、スーツの男の姿がホログラムに映し出された。

一瞬どちらが本物なのかわからないほどの精巧さだった。


「立派な墓を建てて、豪華な戒名をもらっても

 顔を忘れてもらっては元も子もありませんから

 弊社ではこうして生前の姿をホログラム保存してお墓に出せるんですよ」


「こ、これはすごい! いくらなんじゃ!?」

「お値段はりますよ?」

「かまわん!!」


父はさっそくホログラム墓標を契約した。

生きているうちに確認しておきたいと作業を急がせた。


「完成しました。こちらがお墓になります」


「おお……すごい……!」


完成した墓には自分の姿が映し出されていた。

鏡よりも立体的でまるでその場にいるようだ。


「……ワシってこんななの?」

「はい。3Dスキャンしてますから」


「もっと、カッコよくできない?」

「はい?」


「なんでこんな老いた姿で再現するんじゃ!

 もっと幾人もの女をはべらせていたワシ全盛期を再現しろ!」


「そんな無茶な」

「金なら出す!!」


父はここぞとばかりに散財してでも「あの頃のワシ」を再現した。

昔の写真などから立体を作り出す関係で費用は膨れ上がった。


「で……できました……」


「もっとシブくできない?」


「ご本人から遠ざかりますが……」


「何を言っておる。ワシがどれだけイケイケだったかを

 ワシの子どもたちに知らしめるためにも必要なんじゃ」


「ええ……」


整形中毒にでも陥ったかのように父はますますホログラム墓標にのめり込んだ。

もっと腹筋を割って、もっとアゴを割って、もっとダンディに。

ホログラムを見ては直し、見ては直しを繰り替えした。


その結果……。


「すまん、金を貸してほしい」


「お、親父!? お金あるんじゃなかったのか!?」


「生涯最後にしで最大の使いみちを見つけてしまったんじゃ」


「いったい何に使っているのよ」

「ある意味、お前たちに対する花向けというか……ゴニョゴニョ」


言い渋った父だったがすぐに息子にバレてしまった。


「ホログラム墓標を作ってる!?

 それで、自分をもっとカッコよくするためにお金がほしい!?」


「なにをそれだけじゃない! ホログラムだと雨降ったときに映像が乱れるから

 そこの改修もしたいと思っておる。あとホログラムの縮毛矯正と脱毛と……」


「親父……」


「良いじゃないかぁ! ワシ最後の娯楽なんじゃよぉ!!」



「「「 協力するよ!! 」」」


「……え?」


てっきり怒られるものだと思っていた父は目を点にした。


「どうしてもっと早くに相談してくれなかったんだよ」

「そうよ。そんな効果なお墓を作る予定だったなんて」

「俺たちも協力するよ。家族だろ」


「お前たち……!!」


豪華なお墓になればなるほど遺産は少なくなってしまう。

それでも息子たちは親身に父に協力してくれた。


お金ではない、親と子の関係を強く感じた。


「お前たち、本当にありがとう。これでワシの満足の行くお墓ができたのじゃ」


完成したホログラム墓標は若い頃の父を完全再現しており、

できるうる限りの豪華な装飾とオプションサービスがお墓に備えられた。


「良かったな、親父」


「ああ。一番良かったのはお前たちの心を知れたからじゃよ」

「どういうこと?」


「お前ら、ワシのためにたくさん協力してくれたじゃろ。

 それが嬉しかったんじゃ。最後まで自分を気にかけてくれる人がいると知れたのは

 ワシの人生で……最高の……宝じゃよ……」


「親父……? 親父ィーー!!」

「お父さーーん!!」

「とうさーーーーん!!」


父は満足そうな顔で天に召されていった。

息子たちは「ふう」と息を整えてからお互いの顔を見合わせた。



「さて、あの墓は売ったらいくらになるか楽しみだな!!」

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