幻影魔法で裏勇者

ぐっちぃ

魔王討伐

「はぁ、はぁ」

 幻影魔法げんえいまほうの使い手リーナが走る先で戦闘音が聞こえてくる。


 スカッ、スカッ


「やはり勇者ではないな、お主」

「俺は勇者ユリウスだああああぁ」


「またやってるなー、ユリウスったら」

 勇者を自称するユリウスの攻撃は魔王と思しき相手にかすりもしない。


「もう戦闘始まってるじゃん。ユリウスに褒めてもらうために服選んでたら遅くなっちゃった」

(幻影魔法、認識阻害)

 彼女は戦闘が見える位置にある茂みに隠れつつ、念の為に魔法を唱えた。


「ふはははは、まさか勇者がこれほどとは。この時代に復活できたこと感謝するぞ」

「くっ、全てかわしやがる。さすが魔王と呼ばれるだけはあるな」

 勇者と魔王の戦いというより子供と大人のごっこ遊びに似た光景だった。


「英雄の剣は切れ味もよく攻撃力こそ高いけれど、ユリウスは剣術が下手なのよね。がんばれー」

 彼女は見つからないようにこっそりと勇者を応援している。


「うわあああ、これほどまでに差があるのか」

「弱い、弱すぎる、これが勇者の力か、それとも魔王であるわれが強すぎるだけか」

 魔王はわっはっはと大げさに笑いながら勇者を踏みつけている。


「このままじゃ⋯⋯ユリウスのためにも、もう少し1人で戦わせてあげたかったけれど」

 勇者は必死にもがくが逃れることは出来ない。


「さらば、いと弱き勇者よ、これで終わりだ!」

 魔王の手には当たれば即死だと言わんばかりの禍々まがまがしい球体が生成されている。


「死なせてたまるもんですか! よし、魔王にユリウスの位置を錯覚さっかくさせよう!」

(幻影魔法、蜃気楼しんきろう!)


「な、なんだこのきりは! 勇者、お主の仕業か?」

 突如霧が現れたことにより、魔王は1歩下がる。


「うわっ、またあの霧だ。でも霧が出ると毎回俺に流れが来るんだよな。よっしゃ、いくぜぇ」


 ゴスッ


「いたっ、ふっふっふ、そんなものか! って今後ろから攻撃した?」

 リーナの発動した蜃気楼で幻を見せているため、魔王は攻撃をかわしたつもりになっているだろう。


「俺は後ろからなんて卑怯な手は使わねーよっ!」


 ゴキッ


「あいたー! しかし残念だったな、腕なんぞすぐに再生するのだ。それよりわれはさっきからなぜ剣で殴られているのだ?」

 ユリウスの打撃で魔王の腕はあらぬ方向に曲がったが、すぐに再生が始まっている。


「剣術がちょっとばかり苦手だからな。俺が振るといつもこうなるんだよっ」

「ぐっ、次は横から、攻撃は全て避けているはずなのに」


 ユリウスの攻撃のタイミングに合わせて、魔王が自ら当たりに行くように幻の攻撃を避けさせている。


「避けてるも何も、俺には止まって見えるぜ!」

 それもそのはず、ユリウスには魔王は1箇所で突っ立っているように見せている。


「この霧が出ている時の俺は無敵だ。そろそろ決めるぜ。」

「お、キター、必殺技タイミング! でもユリウスは必殺技なんて使えないのよね。派手な演出がんばるぞっ」

(幻影魔法、装飾光線)


 ユリウスが掲げた剣に光が集まる、ように見えている。

「「必殺! ライトセイバー!」」

「やった、一緒に言えた!」

 剣先の方向に伸びた光が腕の振りに合わせて魔王に襲いかかる、ように見えている。


「天に召されよ、永遠に。いや、地獄に落ちろ。いや、燃え尽き」

「魔王には一旦眠ってもらおう」

(幻影魔法、走夢灯そうむとう)

 魔王は立ったまま夢の世界へといざなわれる。


「よっしゃ、魔王も倒したし、はやく帰ってリーナに自慢するんだ」

 蜃気楼によりユリウスの目に魔王は映っていない。

「ユリウスが私に? かわいい! はやく村に帰って1番におかえりなさいを言いたい。

 ⋯⋯でもその前に魔王を倒さないと」


 ユリウスのいなくなった空間には魔王がぼーっと立ち尽くしているだけだった。

 リーナは隠れていた茂みからテクテクと魔王の前まで歩いていく。


「魔王さん、悪いけどユリウスのために亡くなってください!」

(幻影魔法、剣地獄)


 魔王の夢の中では毎秒1本ずつ剣が刺さり続ける。

 立ったままの魔王の体にはどんどん刺傷が増えていき、100を超えたところで体が崩れ灰となった。


「はぁ、はぁ、ふぅぅ。ようやく終わった。現実に影響するほどの幻影は体力をたくさん消耗するから疲れちゃうよ」

 魔王と勇者の戦場には1人の女の子が息を切らして座っている。


「あー、こうしちゃいられない。ユリウスより先に村に帰らないと!」



「はぁ、はぁ」

 リーナはジョギングペースのユリウスより一足はやく村にたどり着いた。


「はぁ、ちょっと休もー」

 家の扉を開けようとすると、


「あ、ユリウスが帰ってきたー」

 村の中で誰かの声が響いた。

 リーナは息することも忘れて村の入口に戻った。


「ふぅ、おかえり、なさい、ユリウス」

「ただいま、リーナ。でもどうしてそんな息を切らしてるんだ?」

「1番におかえりなさいを言いたくて、走って来ちゃった」


「そんなに慌てなくても俺はやられたりしないよ」

「ってことは魔王をやっつけたの?」

「あったりめーよ! この勇者ユリウスに倒せない敵なんていない!」


「ユリウスかっこいい、今日は真の勇者誕生の宴をやらないとだね」

「ああ、俺の英雄譚を聞かせてやるからな。期待しててくれよ」


「うん!」

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幻影魔法で裏勇者 ぐっちぃ @gutty_128

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