第215話 それぞれのさきへ(美久里)

 雨が降って、より一層地が固まった美久里たちの卒業式がやってきた。

 長かったような、短かったような三年間。

 様々なことがあった。


 その多くは、美しい思い出として記憶に残り続けることだろう。

 いや、逆に記憶に残らないかもしれない。

 だってこれからも、みんなと一緒に同じ道を歩き続けるのだから。


「おーい、美久里ー!」


 朔良が校門前で美久里のことを呼んでいる。

 思えば、朔良に声をかけてもらえたことで楽しい日々が始まったのだった。

 そう思うと、なんだか感慨深い。


「もうみんな待ってますよー!」


 萌花は小さな身体で、大きく手を振る。

 最初は頭のいい優等生としか知らなかったが、色々と面白い子だった。

 これからも変わらず、小さな身体のままでいてほしい。


「美久里ちゃんやっと来たんだ〜。遅いよ〜」


 紫乃はあくびをしながら、急いできた美久里を見る。

 紫乃を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになる。

 あの忌々しい記憶に優しい光が差すような。


「美久里もついにここでマイペースキャラになるんすかぁ?」


 葉奈は、息を切らす美久里にペットボトルのお茶を渡しながらからかう。

 掴みどころのない感じの印象だが、根は優しい子だ。

 渡されたペットボトルは飲みかけだけど。


「みくにゃんってば、はなにゃんにそう言われるほどの子だったんだにゃぁ」


 瑠衣は面白そうに微笑む。

 妖艶な出で立ちと幼い中身は、相反しているように見えても相性がいい。

 それにトリコになる子も結構いただろう。


「まあ、少しくらいなら神も許してくれるんじゃないかな」


 柚は優しげな表情で、よくわからないことを口にする。

 柚との出会いは二年生からだったが、キャラが濃くて第一印象が強い。

 美久里は未だにあれを思い出すと赤面してしまう。


「……ここにツッコミ役はいないのね」


 ……そして、いつものメンバーの中に愛杏がいる。

 なんだか複雑な気持ちはあるが、今まで過ごしてきて根っからの悪い人ではないことはわかった。

 愛杏が口を開くたびに身構えてしまうようになったけど。


「この校舎と、みんなと、もうお別れなんだね……」

「なに言ってんだ。あたしらの進路が変わろうと、あたしたちの関係はずっと変わらねぇだろ?」

「そうですそうです! まだみんなと一緒にしたいこと、たくさんあるんですから!」


 桜の花はまだ遠く。だけど、それが芽吹き始めていることは実感できた。


「花火大会行きたいし〜、スイパラとかもいいよね〜。あと遊園地とか動物園とか〜」

「みんな大学進学なのは同じっすし、夏休みとか春休みとか利用して行きたいっすよね!」

「ボクは専門学校行くんだけど」

「そんなことはどうでもいいでしょ!?」


 みんなバラバラになったとしても、美久里たちの関係は形を変えつつ、これからも結びついていくだろう。

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