第214話 柚の過去

 人間観察とは、なんとも楽しいものだ。

 だれとだれが仲良いだとか、好きな人がいるだとか、これが好きだとか。


 それを俯瞰して見るのが好きだった。

 自分はそこに入らず、ただ遠くから眺めているのが好きだった。

 そうすることで、神の視点に立てているような気がしたから。


「あー、楽しいなー」


 この頃から、その気はあったのかもしれない。

 自分は特別な存在だと信じて疑わない――厨二病というやつの。


「さーて、今度はなにを観察しようかな〜」


 色々観察してきたから、そろそろネタが尽きてきてしまった。

 楽しいこととはいえ、やはり飽きてきてしまっている部分もある。


「うーん、今日はだいぶ観察したからなぁ……ん?」


 その時、ちょうど廊下で男子とすれ違った。

 廊下でだれかとすれ違うのなんて当たり前のことだ。

 だけど、なぜか目が離せない。


 その男子に目を奪われた……わけではなく、その男子がつけていた眼帯に目がいった。

 普通なら「どうしたんだろう」とか「痛そう」とか思うのだろう。

 だけど、柚は目を輝かせて思う。


 すごくかっこいい、と!

 あの白い眼帯がいつまで経っても忘れられなかった。

 自分もあれをつけてみたい。

 柚はいてもたってもいられず、学校が終わったらまっすぐ家に帰った。


「え、眼帯……? そんなものなにに使うの? あんた怪我してないじゃない」

「でもほしいの! 買ってよ、お母さん!」

「だめ」

「えー!?」


 そのあと何度頼んでも、一向に聞き入れてもらえなかった。

 柚はそこで諦めた……かと思いきや、お年玉を引っ張り出す。


「これくらいあれば買えるかな……」


 もう眼帯を買うことしか頭にない。

 あの時の衝撃がまだ残っている。

 家族共用のパソコンを開いて検索すると、包帯の写真も出てきた。


「ほ、包帯ってこんなかっこよかったっけ……」


 包帯にも惹かれてしまった。

 もうこうなっては、今あるお金だと足りないかもしれない。

 他にも惹かれるものがあるかもしれないから。


「中学生になったら……いや、まだバイトできないっけ……それなら、高校生になってから……!」


 ほしいものが買えるまで、お金を貯めようと決意した。

 そして、高校生になってからはバイト三昧の日々を過ごしているのだとか。

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