第206話 萌花の過去

 萌花には仲のいい友人が二人いた。

 いつも三人で過ごしていることが多く、萌花にとって楽しい時間が続いていた。

 ……あの時までは。


「もう、あたしはこれがいいの! なんでわかってくれないの!?」

「あんただってわたしの意見聞いてくれないじゃない!」


 急に、その二人が喧嘩し始めてしまったのだ。

 なにが原因なのか、萌花にはわからない。

 だけど、今止めなければやばいことになるということは察することができた。


「あ、あの……なにで揉めてるんですか……?」


 おずおずと割って入って、話を聞く。

 するとどうやら、二人が入っている部活のことで言い争っているらしい。

 方向性の違いとか、そういう類のものだろう。

 萌花は二人とは同じ部活に入っていないから、なんともいえなかった。


「萌花、どう思う? こいつとはほんとやってられないよ」

「それはこっちのセリフだし! 萌花、ぶっちゃけどっちがいいと思う!?」

「え、私ですか!?」


 話を聞いていただけの萌花にとばっちりが。

 中立的な立場にいる以上、どちらの味方もできない。

 というか、どちらかを選ぶなんてしたくない。


 だけど、今まさに断崖絶壁の上にいるような感覚だった。

 二人は萌花の方を見て、じっとその口が開くのを待っている。

 はやく、答えを出さなくてはいけない。


「……どちらの意見も取り入れる、というのはどうでしょう?」


 それがいけなかったのかもしれない。

 どっちつかずの萌花の言葉は、二人には届かなかったようで。

 それから三人は、バラバラになってしまった。


「はぁ……またこんなことが起きたら嫌だな……」


 萌花は泣きたくなるほどつらかったが、泣くことはなかった。

 そういうものだと、理解していたから。


「高校では、仲のいい友だちは作らないようにしよう」


 そう決めた萌花に友人がたくさんできるのは、もはや言うまでもない。

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