第202話 美久里の過去

 小学生の頃。

 今よりも人見知りで、コミュ障というより無口だった。

 同級生からの軽い質問などにも答えられないほど口が堅かったのだ。


「はぁ……」


 美久里はそんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。なんで生まれたのだろうと嘆くこともあったほど。

 そんなことを続けていれば、人に距離を置かれるのも必然で。

 気づいた時には、美久里の周りにはだれも寄り付かなくなっていた。


 子どもというものは特に、自分と違うものを理解しようとしない。

 それどころか、無邪気な顔で違うものを排除しようとする。

 そのことを、美久里は今まさに体感していた。


 『みんな違ってみんないい』とは言うけれど、それに顔を背けて当たり前のように『みんなと違うものは悪いもの』になっている。

 そんな環境で育って孤独を感じないわけもなく。


「うっ……うぅ……」


 美久里はもう限界だった。

 幼い子どもには、過酷すぎる仕打ちだ。


「ぐす……ん?」


 そんな時、美久里と同じくぽつんと一人でいる子を見つけた。

 机に座って、鉛筆を持っている。

 なにを書いているのか気になって、悪いとは思いつつ、後ろからこっそり覗いた。


「えっ! うまっ!」

「えっ!?」


 その子はどうやら、絵を描いていたらしい。

 今人気の『プリズム☆ミルキィ』という魔法少女アニメの主人公がそこにいた。

 すごく似ている。


「すごいすごい! どうやって描いたの? 私も絵うまくなりたいな〜!」


 美久里は感極まって、思わずその子を置き去りに舞い上がってしまった。

 コミュ障で人見知りだったはずの美久里が、その時だけは年相応の無邪気な女の子になっていた。


「えっと……その……ほんとにうまいかな〜?」

「うん、もちろん!」

「よ、よかった〜……ありがと〜……」


 この子となら、うまくやっていけそうだ。

 美久里は直感的にそう思う。


「あなたの名前は……?」

「僕? 僕はね――」


 その瞬間、世界がキラキラと輝いているように見えた。

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