最終章 みんなのキズナ

第201話 さいやくのはじまり(美久里)

「今日から三年生なんだ……! みんなに会えるのが楽しみだなぁ……!」


 美久里は心を弾ませ、学校に向かっていく。

 心臓破りの坂――『神の坂』もずいぶん慣れたものだ。

 一年生の頃はヒーヒー言っていたのに。


「でも、あと一年でみんなともお別れなんだよね……」


 そう思うと、このまま時が流れないでと願いたくなる。

 だけど、願いを叶えてくれる神様なんているはずもなく、足を先に進めるしかない。

 それは無情にも思えるが、世の中は諸行無常。

 決して変わらないものなんてないだろう。


 それは、人の心も例外ではない。

 もし、この先進路が別々になって疎遠になってしまったら……

 そんなことも、考えてしまうものだ。


「ふぅ……やっと着いた……ん?」


 一年の頃より楽に感じるようになったとはいえ、『神の坂』はあなどれない。

 スタミナ消耗が激しいことに変わりはない。


「こんにちは。いや、はじめまして……かしら?」

「ふぇ? え、えっと、あなたは……?」


 急に知らない子から話しかけられて、美久里は人見知りとコミュ障モードに入った。

 知らない子とはいえ、同じ制服を着ているからタピ女の生徒だとは思うが。

 その子はおだやかに、優雅に微笑む。


「アタシの名前は愛杏あん。って、別に名乗らなくてもいっか。仲良しこよししようってわけじゃないんだし」

「……え?」

「あんたのこと、一月から三月にかけて調べさせてもらったわ。くふふっ」


 この子の髪は明るいピンク色なのに、邪悪なオーラが滲み出ている。

 なにか、嫌な予感がする。

 美久里のことを調べたといっていたし、少なくともまともな人ではないだろう。


「あー、ごめんなさい。一人で勝手に盛り上がってしまったわ。用件を述べさせてもらうわね」


 少し風が吹く。

 ピンク髪の少女は、その髪を低い位置で一つに縛っているため、靡くことはなかった。

 その代わり、ピンク色の瞳が妖しく揺れる。


「うふふ、あんたの過去は――」


 それを言われた瞬間、忘れてしまいたい記憶がフラッシュバックした。

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