第168話 ねっちゅう(朔良)

 あの子の目は私を見ない。

 でも、それでいいと思っていた。

 それこそが正解なのだから。


「せんぱーい!」

「○○ちゃん……」


 だけど、あの子の想い人の視線は別の人に注がれている。

 その光景は当たり前のことだったが、少し胸が痛い。

 恋心があろうがなかろうが、彼女の想いを知っている私には直視できなかった。


「△△……」


 そう小さく呟くことしかできない。

 今すぐにでも△△を抱きしめたかった。

 そんな資格なんてないと知りながら。

 ただただ見守り続けた。


 ☆ ☆ ☆


「……で、この後どうなるんだ?」

「さくにゃん……それ言ったら楽しくないにゃ」


 朔良は瑠衣に勧められたゲームをプレイしていた。

 軽くプレイするだけのつもりが、どっぷりとその魅力にハマっているようだ。


「うあー! めっちゃ気になるー!」


 朔良の中でまほなれに対する熱と同じくらいの熱が発生している。

 こんなになにかにハマるなんて、今まではまほなれ以外ありえなかった。

 それほど、このゲームは面白い。


「こんなにハマってもらえてよかったにゃ。ゲームって誰かと一緒にやれば楽しいもんにゃ」

「あー、それはわかるが……これ、恋愛ゲームだぞ……?」


 ゲームはゲームでも、一人で楽しむタイプのゲームではないだろうか。

 協力プレイがあるわけでもないし。

 誰か一人がプレイしているのを、他の人はただ見ていることしかできない。


「そうなんだけどにゃ……なんていうか、ハマってるのが自分一人じゃないっていう安心感? がほしいというかにゃ……」

「あー、そういうことか」


 誰かとこのゲームのよさを語り合いたいとかそういうものだろう。

 だけど、こういう恋愛ゲームなら、他のメンツの方がハマりそうな気がするが。


「こういうのは萌花とか紫乃ちゃんの方がハマりそうなイメージがあるんだが……その二人には声かけたのか?」

「かけてないにゃ」

「は!?」


 瑠衣はなにを言ってるんだ。

 いや、言っていることはわかるが、意味がわからない。

 より可能性のある人に声をかけるのが普通だろう。

 それなのに、朔良にだけこのゲームを進める理由がわからない。


「る、瑠衣は……さくにゃんと一緒に楽しみたかったのにゃ……」


 瑠衣は顔を赤らめて、上目遣いで朔良を見つめる。

 恋する乙女のように見えて、朔良は不覚にもドキッとしてしまった。


「そ、そうか」


 瑠衣の照れが朔良にも移り、急激に顔が赤くなる。

 朔良の部屋は、しばらく独特な空気が流れていたのだった。

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