第134話 どうぶつえん(美久里)

 美久里は美奈に連れられ、動物園に来ていた。

 美奈の誘いはいつも唐突で、美久里は振り回されっぱなしだった。

 それでも、美奈といると楽しいから付き合っている。楽しくなかったらそもそも一緒についてきてはいない。


「わー、かっわいいー! 私、動物の中だったら狐が一番好きかも。あのフォルムがなんか癖になるんだよね〜」

「あー、おねえの言いたいことはなんとなくわかるかも。私も狐のしっぽとかふさふさしてそうで触りたいな〜って思うから」


 美久里が狐をじっくり眺めながら言うと、美奈も嬉しそうに同調する。

 美久里と美奈はその狐にうっとり見惚れる。

 二人にとって狐を眺めるのは、飽きないことのようだ。


「いいよね、ほんとに……なんか美奈に雰囲気似てるし」

「うんう――ん!? ふぇっ、私っ!?」


 美奈はびくりと飛び跳ねながら驚く。

 オーバーすぎるリアクションを受け、美久里も思わず固まってしまう。

 しかし、美久里がなにか言わなければ、美奈は口を開いたままにさせて喉が乾ききってしまうだろう。


「あ、あー、えっとね……そんなに深い意味はなくて……その、思わず愛でたくなるというか……」

「いや、その説明が意味わかんないんだけど」

「うぅ……なんて言ったらいいんだろう……わしゃわしゃしたくなるというか……こんな風に」


 口で説明しても上手くいかないなら、いっそ行動に移せばいい。

 美久里はそう考え、美奈の頭に手を置いた。

 美奈はまたビクッと身体を揺らしたが、美久里が手を動かすとすぐに止まった。


 普通の姉妹のスキンシップ。そこに特別な意味などない。

 ない……はずだ。それなのに……


「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと……」


 美久里がそう言って手を離すと、ぎゅっと抱きついてきた。

 戸惑いを隠せない。

 美久里は目を見開いて身体を硬直させることしかできなかった。


「おねえ……もっと……」


 上目遣いで、美奈は足りないとねだる。

 いつもなら「やめてよ、おねえ!」とか言って怒っていそうなのに。

 なんだか昔に戻ったみたいで、懐かしく思えた。


「今の美奈は甘えん坊さんなのかな〜?」

「……子ども扱いしないで」


 美久里が姉っぽい部分を見せると、美奈はいつものようなツンツンとした態度に戻る。

 けれどいつものような刺々しさはなく、二人は他人に見守られながらイチャイチャを続けた。

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