第131話 さいかい(紫乃)
紫乃が最寄り駅のホームで列車の到着を待っていると、小さな人影が現れた。
「あ、えっと、紫乃ちゃん……なのでしたっけ?」
不安そうに紫乃の顔を覗き込む人影は、前にも見たことのある幼い出で立ちをしている。
とても年上には見えない年上の女の人。
「あ、確か……沙友理先輩だったっけ〜? どうしてここに〜?」
紫乃は座っていた椅子から立ち上がり、嬉しそうな驚いているようなよくわからない表情を浮かべる。
腰まで伸びた長い小麦色の髪を靡かせ、翠色の瞳をくりくりと輝かせる少女――篠宮沙友理。
彼女に会うのは、妹と付き合っている夢を見たんだけどどうしようという悩み相談を受けた時以来だ。
「お久しぶりなのです。今からこの路線で帰るとこなのですよ」
沙友理はそう言い、定期券として使っているであろうmanacoを取り出す。
そこには、紫乃の最寄り駅の名前とよくわからない駅名が載っていた。
「そら……のみや?」
「そうなのです。そこがわたしの住んでる街なのですよ」
沙友理はとても機嫌よさそうに答えた。
自分の街をとても誇りに思っているようだ。
紫乃はどちらかというと、自分の住んでいる街をあまり好んでいない。
だからこそ、沙友理の様子が眩しく映る。
「沙友理先輩はすごいね〜。僕はもっと都会に近い場所だったらよかったのにとか思っちゃうよ〜」
「あはは……それはわたしも昔思ったのですけど、わたしの大好きな――大切な人に会えたのがこの街なので……わたしはこの街が大好きなのですよ」
なるほど、と紫乃は思った。
沙友理はその街で大切な人と出会った。裏を返せば、その街でないとその人とは出会えなかったということで。
だからこそ、その街が大好きになったということらしい。
それがわかり、ふっと微笑んで雲一つない青空を見上げた。
「僕もそういう出会いがあればいいな〜。あ、いや、もうあるか……」
「ん? 紫乃ちゃんにも大切な人がいるのですか?」
「まあね。僕にもいるよ。――とても大切な人たちが」
紫乃がそう言った後、二人は同じ電車に乗ってそれぞれの降りる駅で別れたのだった。
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