第80話 かいぐい(朔良)

 大通りにある有名なアイスクリーム屋はタピ女に近く、小遣い程度のお金で気軽に食べられる。

 その上色々な種類のアイスがあり、いつ来ても飽きることはない。

 今日のようにいつ雨が降るとも知れない天気だとしても、女子高生はこういうお店に寄っていくだろう。


「……学校帰りにこういう店に寄るなんて、まるで女子高生みたいで嬉しいです」

「いや、あたしたち女子高生だろ」


 萌花は様々な種類のアイスを輝いた目で見回しながら、朔良と会話をする。

 店内は少し狭いが、イートインスペースもちゃんと確保されている。

 朔良はポッピングシャワーを、萌花はティーオーレを購入した。


「もしかして萌花って、買い食いとかあんましないのか?」

「あ、ここまではしゃいでると分かっちゃいますよね……いつも真っ先に家に帰るので、お店で食べるのはすごく新鮮なんです」

「なるほど、だからそんなお菓子食べてる時みたいな顔しながら食べてるのか」

「えっ……!?」


 咄嗟にアイスのカップで顔を隠す萌花に、「冗談だ」と伝える。

 耳まで真っ赤に染まってはいるが、頬を膨らませる萌花を見るのは今が初めてだった。


「もう……恥ずかしいじゃないですか」

「ごめんって」


 どうやら、お菓子を食べている時に顔が蕩けてるという認識はあったらしい。

 その面白い表情と反応を肴にして、朔良はアイスを口に入れる。

 しかし、こうして話していると萌花は……


「結構表情豊かだよなぁ」

「は、はい? 私ですか……?」

「おう。なんか正直、最初は仲良くなれないタイプだと思ってたんだよな。なんか腹の底が見えないっていうか、何考えてるのかわからないみたいな?」

「そ、そうなんですか……」


 少しショックを受けている風な萌花に、朔良は咄嗟に取り繕う。


「いや、あくまで最初はそうだっただけだから! 今は全然そんなこと思ってない……から……?」


 そんなことをあたふたしながら言っていると、萌花の顔がどんどんテーブルへと沈んでいく。

 もしかしたら地雷を踏んでしまったのかも知れない。


「いえ、分かってはいるんです。でも、どうしても昔友人たちが仲違いしてしまったことを思い出してしまって……人と仲良くなるのが怖いんです」


 萌花はそこまで言って、深く息を吸い、吐く。

 しかし、それは溜め息というようなものではなく、どちらかというと、もっとポジティブなもののように感じられた。

 そしてそれを裏付けるように、顔を上げた彼女の表情は、一転して明るいものとなっていた。


「だから私、すごく嬉しかったんです。朔良と……みんなと、仲良くなることができて」


 少し長いまつげの端を光らせたその顔には、柔らかな笑みが浮かんでいる。

 朔良にはもったいないくらいの、その真摯な想いに応えたい。そう心の底から感じた。


「うん。あたしも……萌花と友達になれて良かった」

「……ふふ、ありがとうございます」


 口元に手をあてて小さく笑う萌花は、まるで周囲から切り離されたように綺麗で……思わず見とれてしまっていた。

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