個性派JK☆勢揃いっ！

番外編 季節の行事

メリークリスマス

　今日は町が煌びやかに輝き、人々も寒さに負けずに元気になる日。

　――…………一部、「リア○爆発しろ」という負の言葉が聞こえてきそうな日でもあるのだが。

　だけど、子供にそんなものは関係ない。……と思う。

　赤い服を着て、トナカイを連れている白ひげが特徴的な、プレゼントを子供に届ける人が来る――子供にとって夢のある日。

　――そう、今宵はクリスマス。

　雪が降り積もる、ホワイト・クリスマス。

　ある一家でも、クリスマスパーティーが開かれようとしていた。

　☆　☆　☆

「メリークリスマース！」

　美久里が元気よく言うと、次々に美久里の言葉をみんなが反芻する。

　みんな、というのは――ご存知の通り、いつものメンツだ。

　いつもは簡素なテーブルに、色とりどりの豪華な料理が並ぶ。

　大きな七面鳥、ケン○ッキーのチキン、近所の焼き鳥屋で買ったであろう唐揚げなどなど。

「――なんか鶏ばっかだね！？」

　……訂正しよう。テーブルは茶色に染まっていて、とても色とりどりとは言えない。

　木製で元々茶色なテーブルなのに、さらに茶色の料理が上乗せされ、茶色に酔ってしまいそうになる。

　気が遠のく中、美久里は確かに聞いた。

「美久里って、鶏嫌いだっけ？」

　――…………

「いや……別に嫌いじゃないけど……」

　そう、嫌いではない。だけど、何かが違う。

　美久里はこう言いたい。

　――違う、そうじゃない！　と――！

「嫌いではないんだけど……こんなにも鶏ばっかだと……ちょっとね？」

「……ああ、ごめんなさい。私の父から『人様の家に世話になるんだから、七面鳥の一つも持っていけ』って言われてまして……」

　美久里の抗議に、萌花は申し訳なさそうに言った。

　そして、呆れ気味にため息をついてワケを話し始める。

　だけど――少し微笑んだように見えたのは気の所為だろうか。

　すると、萌花に続いて、紫乃がその七面鳥を口に入れながら口を開いた。

「僕も学校近くの焼き鳥屋さんの出してくれる鶏が美味しくて……つい買ってきちゃったんだよね〜」

　――確かに学校近くにある焼き鳥屋さんには、帰り道、いつも食欲を唆られる。

　ちょうど小腹が空く時間だということも相まって、その焼き鳥屋さんの前を通ると――焼き鳥の匂いが鼻をつき、無意識にお腹がグゥ……と切ない声を上げる。

　……確かに紫乃がつい買ってきてしまうのも仕方ない。

　美久里も特別な日には、お小遣いをはたいてでも買ってしまうかもしれない。

　それほど、学校行くの焼き鳥屋は美味いのだ。

　そして――ケン○ッキーはと言うと。

「あはは。みんなでチキン買っちゃったんすね……どうします？」

　――葉奈の仕業だ。

　部活からの帰り道で見つけ、誘惑に耐えきれずに買ってきてしまったらしい。

　紫乃と葉奈は揃いも揃って子供っぽい部分がある。

　買いたいのぐらい我慢すれば良いのに……

　と、美久里はため息をつく。

「はぁ……まあ、ごちゃごちゃ言ってても仕方ないよね。今日はクリスマスなんだし……！　楽しまなきゃ……！」

「美久里はたくましいなぁ……」

　美久里は気持ちを切り替えて高らかに言うと、朔良が感嘆の声を上げる。

　……何故か拍手もされた。

　美久里が少し複雑な気持ちになっていると。

「そうだよ。気にしてたって何かが変わるわけじゃないんだしさ。今日は楽しもうよ！」

　美久里の考えに同調して頷く、美奈の姿があった。

　――手には、こん棒のようなチキンを持って。

「あ、うん。ねぇ……それ……」

　美久里が顔を引き攣らせながらそのチキンを指さすと、美奈がハッと目を見開く。

「これはあげないからね……！」

「いらないけど！？」

　何を思ったのか、美奈はチキンを庇うようにして後ずさった。

　……美奈はそんなにチキンが好きだったのか。

　なんだか意外なような、しっくりくるような、変な感覚に襲われた。

　普段は大人しくて優しいのに、意外と肉食な部分もあるのだ。

　そんなことを考えているうちに、どんどんチキンがなくなっていく。

　このままでは美久里の分がなくなってしまう。

　仕方ないので、チキンを口に入れていく。

「美味しい……」

　――とても美味しかった。

　☆　☆　☆

「はあぁ……お風呂はいいねぇ……落ち着くよ……」

「なにお婆さんみたいなこと言ってんの、おねえ」

　温かいお湯が、身体の汚れとともに嫌なことも洗い流してくれているように感じた。

　そして、当然のごとく一緒にお風呂に入っている美奈。

「ねぇ……なんで一緒に入っているの？」

「え、今更すぎない？」

「確かにそうだけど……」

　確かにそれは今更だ。

　だけど、今日は朔良たちも泊まりに来ているんだし、今日ぐらいは別々でも良かったのではないかと思う。

「だってお母さんが一緒に入れって言ってたんだから仕方ないじゃん」

「まあ、それもそうだよね……」

　うちのお母さんはどこかズレているような気もする。

　だが、一人で入るより誰かと入った方が寂しくないからそれはそれでいいのだけれども。

　美久里はバスタオルで身体を拭いて、暖まった身体を外に出した。

　☆　☆　☆

「すぴー……すぴー……」

　鼻息だけが響く寝室。

　そこに、一つの影がゆらりと揺らめく。

　赤い服など着ておらず、トナカイも白ひげもない――美久里だけの、サンタがいた。

「おねえったら……はしゃぎすぎて疲れたの？」

「すぴー」

　サンタが放った言葉に、美久里は寝息で答える。

　そんな姉を見て、美奈は幸せそうに笑う。

　プレゼントを置き、その場を去ろうとした。

　その時――

「ん……」

　――…………

「なんだ……寝返りを打っただけか……」

「すぴー」

　声が微かに聞こえてきた時、サンタは相当焦っていた。

　どう言い繕おうか、どう言い訳しようかなど。

　だが、起きていないと分かったら、極端に安心して胸を撫で下ろす。

　サンタはホッと安堵し、静かに笑う。

　そして――

「おやすみ、おねえ」

　そう言って、部屋を後にした。