第54話 しんいり(瑠衣)

「新入りの朔良です。よろしくお願いします」

「え、えっと……美久里です。よ、よろしくお願いします……」


 礼儀よく深々と下げる朔良と、たどたどしく頭を下げる美久里。

 そんな二人を見て、瑠衣は興奮を抑えられなかった。


「二人とも可愛いにゃ〜!!」

「おわっ!」

「ひゃわっ!」


 我慢出来なくなった瑠衣は、叫び出して二人に抱きついた。

 瑠衣はスキンシップ旺盛で、すぐに身体を密着させる。

 朔良よりもディープな抱きつき魔なのである。


「ふんふん……二人ともいい匂いがするにゃあ……」


 おまけに女の子が大好きで、匂いフェチ。

 変態のような怪しい匂いしかしない。


「お前……ほんと相変わらずだな……」

「へっ!? に、匂いってなに……!?」


 朔良は呆れ気味にされるがままになっていて。

 美久里は腕を鼻につけて、自分の匂いを確認している。


 その状況を作り出した張本人はというと。

 未だに二人から離れず、二人の匂いを堪能している。

 それに見兼ねた部員が口を挟む。


「ね、ねぇ……そろそろ瑠衣ちゃんのからも自己紹介しないと……」

「はっ! そうだったにゃん!」


 部員の言葉で我に返り、瑠衣はバッと飛び退く。

 そして、息を整えながら自己紹介をする。


「お久しぶりとはじめまして。瑠衣って呼んでほしいにゃ」


 瑠衣はそう言い、手を差し出す。


「よろしくにゃ」


 どこか演技がかった笑顔を向けられ、美久里は困ったような顔になる。

 人見知りを発揮しているのか、なかなか手を出せない。

 だが、朔良の方を一瞥すると。


「大丈夫」


 毅然とした様子で言ったので、おずおずと手を出した。

 拙いながらも、端的に応える。


「よ、よろしく……」


 緊張しながら、ふにゃりとした柔らかい笑みを浮かべる。

 すると、当然のごとくまた瑠衣が抱きついた。

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