第47話 たいせつなもの(萌花)

「えー、では、今から皆さんの『大切なもの』について発表してもらおうと思います」


 宗教の時間、シスターが朗らかにそう言った。

 発表とは言っても、それほど長い時間を使うわけではない。

 一人一分間ほどで終わる短いスピーチだ。


「えっと、私の大切なものについて発表します」


 自分の番が回ってきた萌花は、緊張した面持ちで話し始める。

 言いたいことは決まっている。

 これだけは言いたい。

 とても、大切なことだから――!


「私の大切なものは、『友人』です。私の人生に彩りと楽しさを与えてくれました。なのでその友人たちに感謝しながら日々を生きていきたいです」


 上手く伝えられた気がする。

 萌花は満足して、それぞれの『友人』たちに目を向ける。

 その友人たちは、萌花のスピーチに感動したようだ。

 萌花の方を見て微笑んでいたり、目を潤ませていたり、恥ずかしそうに赤面していたり。

 その様子を見て、萌花はすごく心地いい気分で自分の席に戻った。


(緊張した……だけど、ちゃんと伝えられてよかった……)


 本当に、友人たちには感謝している。

 八方美人で完璧になろうとしていた萌花を、優しく仲間に迎え入れてくれたのだから。

 誰にも気を許さなくて、誰にも深入りしなかった萌花のことを、あたたかく受け入れてくれたのだから。


 もう、あの時の自分じゃない。

 あの時の、ものすごい失態をしてしまった自分とは違う。


 今の萌花ならわかる気がした。

 あの時、何を言えばよかったのか。何が正解だったのか。

 でも、もう遅い。今更気づいても、もう手遅れだ。

 

(だけど、繰り返さないことはできる……!)


 これからもしあの時のことが再度起きたとしても、今の萌花なら対応できる。

 大切なものを、失わなくて済むのだ。


「ふ、ふふふ……」


 唐突に不気味な笑い声を出した萌花を、クラスメイトたちは奇異の目で見ていた。

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