第46話 がくえんさい5(葉奈)

「いらっしゃいませっす」


 葉奈は店番をしている。

 お客に食べ物を売る係に割り振られていた。

 ……ちなみに、メイド服とかではない。

 学校側がなぜか、コスプレを禁じているからである。

 理由は不明。


「どら焼き二つっすね。300円でっす!」


 葉奈は割と仕事が出来るようだ。

 手際よくお金を管理し、愛想よく笑顔を振りまく。

 俗に言う“営業スマイル”などではなく、心の底から楽しそうにしている。


「葉奈ちゃんはすごいね〜……僕、そこまで上手く接客出来ないよ〜」


 それは嫌味でもなんでもなく、紫乃の本心からの言葉だった。

 紫乃は接客があまり得意ではないため、呼び込みに回っていたのだ。


「そんなにすごくないっすよ。適当にやってるだけっす」


 なんでもないように笑う葉奈だったか、正直少し疲れている。

 店番も楽ではないな……と、実感している最中のこと。


 一人の少女が入口付近に立っているのを見つけた。

 ツインテールを振りかざし、少々あざとい仕草をしながら首を動かしている。

 ……誰か探しているのだろうか。


「あ、あの〜……」

「にゃん! ……あー、びっくりしたにゃ……」


 葉奈がおそるおそる声をかけると、その少女は驚くほど飛び上がった。

 それよりも気になったのが、この『語尾にゃん口調』である。

 あざとすぎるにもほどがあるだろう。


「え、えっと……誰か探しているんすか?」

「にゃ? うん、ちょっとねー。でも多分大丈夫だにゃん」


 明るく朗らかに笑う少女。

 だが、それがどうにも嘘っぽく見えるのはどうしてだろう。

 葉奈と会話している間も、真っ黒な瞳をキョロキョロと動かしているからだろうか。


「んー……ここにはいないのかぁ……どこに行ったにゃ?」


 独り言を呟きながら、少女はこの場を離れていく。

 小さくなっていく背中を見送りながら、葉奈は思う。


(なんかまた嵐がやってきそうな予感がするっす……)


 新キャラの予感に、葉奈は身震いした。

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