第一章 高校一年生(二学期)

第40話 しんがっき(美久里)

「久しぶりー!」

「おー、おひさ〜!」


 夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。

 夏休みも充分楽しかったが、美久里にとっては学校に行くことの方が何倍も楽しいようだ。


 もちろん、勉強や授業は面倒くさいことこの上ないのだが。

 みんなに会えるこの時間が、何よりも楽しいのだ。


「朔良、ちょっと焼けたっすか?」

「ちょっと外に出てる時間長かったからな〜。葉奈だって焼けたんじゃね?」

「多分気のせいじゃないっすか? うち、ずっと家にいたっすから」


 葉奈と朔良の和気あいあいとした会話が聞こえてくる。

 そう、これだ。これが恋しかったのだ。

 なんだかこの会話を聞いているだけで、ほっこりとした温かい気分になる。

 これが心地よくてたまらない。


「おはよぉ〜。みんなは元気だね〜」

「紫乃ちゃん……! おはよう!」


 紫乃は挨拶の延長といった感じで、ナチュラルに抱きついてきた。

 紫乃に抱きつかれるのは初めてだが、ぎこちなさがない。


(慣れてるのかな……?)


 こういうスキンシップは、女子校ならではだろう。

 この距離感の近さは、共学だった小・中学時代にはなかった。


 初めは戸惑っていた美久里だが、やがて「こういうものなのか」と段々順応していったのだ。

 今では美久里も、たまにする側に回ったりする。

 だから、こういうスキンシップも恋しかった。

 なんだか、「帰ってきた」という感じがする。


 そんな時、シスターが壇上に立つ。

 これは祈りの時間が始まるという合図だ。

 アリタスホーム(体育館のような場所)に集まった全生徒が一斉に静まり返る。

 厳かな雰囲気が辺りを包む。


「ルカによる福音書、16章の10節。『ごく小さな事に忠実な者は、大きな事にも忠実である』と――」


 このお祈りが終われば、新学期最初の集会が始まる。


(新学期もみんなと楽しく過ごせたらいいな……)


 そんなことを思いながら、シスターの話を聞いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る