もしもシスターと葉奈が『キスしないと出られない部屋』に入れられたら

「あの、シスター」

「葉奈さん……? なんですか?」

「あの……っすね……」


 葉奈はしどろもどろに口を動かす。

 何か言いにくいことを言おうとしているように感じる。

 話しかけてしまった以上は、何か言わないといけない。

 だから葉奈は覚悟を決め、シスターに話を切り出す。


「なんか……シスターとうちがキ……キス…………しなきゃいけないみたいなんすよね……」

「え、なんですかそれ……」


 シスターが珍しくドン引きした。

 葉奈の言っていることが意味不明だからだろうか。

 それとも、キスという行為をしなければならないことに驚いているのだろうか。

 葉奈に、シスターの真意ははかれない。


「……でもやらなきゃ帰れないっぽいですし……やるしかないっすよね……」

「それはそうかもしれないですが……」


 ――そう。今二人がいるのは、葉奈の家でも、シスターの家でもない。

 なんだかよく分からない――シンプルな部屋に入れられているのだ。


 それに、この部屋の扉に、『キスしないと出られません』という貼り紙が貼られている。

 その貼り紙の内容が本当かどうかは分からないが、出られないのは本当だ。

 さっき葉奈が自分で確かめたのだから。


「はぁ……どうしたもんっすかね……」

「葉奈さんの言う通り、キスしなきゃいけないのでは……」

「うーん、でも……シスターとするのは……なんか……」

「え、今失礼なこと言われたように感じたのですが?」


 ――根本的な解決策が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。

 出たいのはやまやまだが、キスはしたくない。

 そういう思いが強いのだろう。


 ――と、その時。

 シスターがいきなり動いた。


「もう! うだうだしててもしょうがないですから! 行きますよ!」

「……は?」


 ――チュッ。

 シスターの唇と、葉奈の唇がぶつかった音が響く。

 突然のことに、葉奈は目を見開いて固まった。


「ふー、これで扉が開くでしょう……神様、私は正しいことをしましたよね?」


 シスターは、大きな仕事をやり終えた達成感に浸っている。


 だが、葉奈の様子がおかしい。

 身体をプルプル震わせて、顔を俯かせている。

 ――それを見て、さすがにまずいと感じたのか。


「あ、あの……葉奈さん?」


 申し訳なさそうな声色を放つシスター。

 だが――……


「……う、あ、あの……その……こ、こっち見ないでくださいっす……」


 もっと、普段の様子から想像も出来ないような声が響いた。

 その声は震えていて、その言葉を発する時に顔を赤くさせて涙目になっている。

 そんな葉奈の様子を見て、シスターもつられて頬を赤く染めた。


 ――……その後。

 しばらく変な空気が流れ、とっくに開いていた扉に気づくのは結構後になったのだとか……

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