第25話 たいいく(萌花)
「では、早速体力テストを始めたいと思います」
先生の声掛けで、高校初の体育が始まった。
体力テストは小・中学校の時もやっていたため、何をするべきなのかはわかる。
わかる……のだが……
「あ、あの……何でそんなことに?」
「……へ? いや……その……」
目の前のものには、どう反応していいのかがわかない。
「美久里ちゃんって……なんていうか……すごいよねぇ……」
「ふひゃゃゃ! なんなんすかこの状況。笑うしかないっす」
紫乃と葉奈もそれぞれ違う反応を示す。
みんなに変な目で見られている美久里は、不思議そうに首を傾げた。
「……えっと……な、なにか変だった?」
「いや、変っていうか……」
美久里の疑問に朔良が答えようとするも、上手く答えられないようだ。
それもそのはず。
美久里は握力を測っているのだが、なぜか軽く走ってきたぐらいの汗が出ているから。
普通、握力にそこまで体力を削られるだろうか……
(な、謎すぎる……)
とりあえず、美久里が貧弱だということはわかった。
それに加え、吐息がなぜか色っぽくなっていて、こちらが居た堪れなくなってくる。
「つ、疲れた……萌花ちゃん……次、どうぞ」
瞳を潤ませ、謎に上目遣いでこちらを見つめる美久里。
それに対して戸惑いはしたものの、萌花はなんとか平静を装う。
「あ、ありがとうございます……」
そして、萌花はぎゅうっと握力計を握りしめる。
どんな結果が出たのか確認すると、みんなが「おお〜」と小さく拍手をしてくれた。
結構いい結果が出たようだ。
「わぁ……!」
萌花は小さく歓喜の声を上げる。
この結果は、今までの自己ベストを更新しているのだ。
「美久里と比べちゃうと萌花の方が何倍もすごいな」
「たしかに〜。あ、でも僕も握力に自信ないから人の事言えないんだけどね〜……」
「いやいや、美久里よりは大丈夫だと思うっすよ!」
「みんな酷くない!?」
賑やかで騒がしいこの情景に、萌花は小さく口角を上げた。
今、この時間が、何より楽しいと感じるから。
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