第8話 ゆうとうせい(萌花)

 なぜだかわからない。

 だけど、なぜか自分の周りには人が集まる。

 昔から、敵を作らないように気を張っていたからかもしれない。


 まあ、いわゆる八方美人というやつだ。

 クラスに一人はいるだろう。色々な人と仲良くなれるけど、決して誰にも深入りしない人が。

 萌花もえかが、その筆頭であると言えばわかりやすいだろう。


(正直結構疲れるんだよなー……敵も作りたくないけど)


 萌花は魂まで出そうな大きなため息をつく。

 この悩みはどうしたものか……

 そう考えていると、係決めの時間がやってきた。


「室長やりたい人いますかー?」


 先生の甲高い声が聞こえる。

 だが、そんなに耳にダメージがくることはなく、慣れれば気にならない。


(室長……クラス委員か……やっておいて損はないよなぁ……)


 萌花は、リーダー的な役割を率先してやることが多かった。

 面倒くさいと言いつつも、なんだかんだで人をまとめることが好きらしい。


「はい……っ!」


 萌花が手をあげると、教室中から「おぉ~!」という声があがった。

 入学したばかりで、まだお互いのことをよく知らない時期での挙手は、ものすごく勇気がいる。

 そんな勇者は、自然と称えたくなるものだ。


「では、室長は萌花さんで決まりですね」


 驚きを隠せない様子の先生がそう言うと、自然と拍手が沸き起こる。

 クラスメイトからの暖かい拍手を受けて、萌花は少し照れくさそうに顔を赤らめた。


「では萌花さん。一言どうぞ」

「は、はい……っ!」


 先生に呼ばれ、弾かれるように席を立つ。

 そして、教卓へ向かおうとする。

 ――が。


「わっ!」


 机の足に自分の足を引っ掛け、危うく転びそうになった。

 気を取り直して真っ直ぐ向かおうとするも――


「きゃっ!」


 緊張で足がもつれ、教卓の近くでコケてしまった。

 萌花は、教室中に変な空気が流れ始めていることに薄々気づいてはいたが、逃げることは出来ない。

 小麦色の腰まで伸びた長い髪を揺らし、橙色の澄んだ瞳でクラス中を見渡す。


「あ、あの……っ! これから室長として精一杯頑張ります! なので、その、よろしくお願いしますっ!!」


 ……と、勢いよく頭を下げたら、教卓に頭をぶつけてしまった。


「いったーい!」


 ――あ、この人ドジなんだ。

 クラス全員が、そのことに気がついて、哀れみの目を向けていた。

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