第7話 おべんとう(美久里)
四時間目の授業が終わり、美久里は局地的な地震にでもあったかのように身体を震わせている。
四時間目の後は、もちろんお昼ご飯の時間だ。
だが小・中学校と違い、席を列にして食べるのではなく、自分たちで好きにグループをつくって食べなくてはならない。
(うぅ……どっかのグループに入りたいけど……嫌がられたら嫌だし……一人で食べようかな……)
コミュ障でネガティブな美久里は、人に甘えることが少し苦手なのだ。
美久里が教室を出ようとドアを開ける。
すると、タイミングよく目の前から人が入ってきた。
「あ、ご、ごめんなさい……っ!」
「こ、こちらこそ……って、美久里じゃん!」
「え、あ、朔良……?」
ぶつかってしまいそうになり、慌てて謝った美久里。
だが、それは美久里の友人である朔良だった。
「美久里……弁当持ってどこ行く気だ?」
「え……あー……えーっと……」
朔良の問いかけに、美久里は身体を跳ねさせた。
どう言うべきか悩み、言葉を詰まらせる美久里。
その様子を見て何かを察した朔良は、明るく笑いながら美久里の手を引いた。
「よし、行くぞっ!」
「え!? ちょ、ちょっと……!?」
半ば強引に手を引かれた美久里は、されるがまま、朔良に連れられてしまった。
だが、友人の手のあたたかさに、なぜか自然と笑みがこぼれる。
☆ ☆ ☆
「ここで一緒に食おうぜ」
「……ここって……」
朔良の言葉と目の前の景色に、美久里は言葉を失った。
だって、ここは、どう見ても――
「そう。――屋上だ」
自分の身体を撫でるように吹く風が、どことなく爽やかに感じる。
屋上から見える景色は、家の屋根が多い。
だが、そのもっと向こう側には、山の頭が連なっているのがわかる。
「ほら、こっちこっち」
「……う、うんっ!」
朔良が床に座って手招きする。
美久里はそれを受けて、花を咲かせるような笑みを浮かべた。
その後朔良が顔を赤くしていたような気もするが、多分気のせいだろう。
(こういうのって……“幸せ”って、言うのかな……)
こんな風に、自分をいい方へ引っ張ってくれる人なんて今までいただろうか。
玉子焼きを美味しそうに頬張る朔良を見て、美久里は物思いにふける。
とてもあたたかい幸せをくれた朔良に、いつかお返しをしなければならない。
(待っててね、朔良……!)
美久里は心の中で伝え、ミートボールを口に入れた。
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