第5話 かかりぎめ(美久里)

「係決め?」

「そうなんだよ。一緒にやろうぜ!」


 入学式や始業式が終わり、いよいよ授業が少しだけ始まっている時期にきていた。

 そして、その時に決めなければならないのが係である。


 どんな委員会に入るのか、はたまたどんな教科の係になるのか。

 美久里はそれについて若干の不安があった。

 こういうのはいつも、一緒にやれるような友人がおらず、残りものを押し付けられてきたのだから。

 なのに――……


「――へ。え! ええええ!? わ、私なんかでいいの!?」

「……美久里って自己評価めっちゃ低いよな……」


 『一緒に同じ係をやろう』という朔良の申し出に、美久里は驚きのあまり座っていた椅子を蹴飛ばして後ずさった。


 当然といえば当然かもしれないが、美久里は今までこういうことでは余り物を押し付けられてきた。

 ――極度の人見知りコミュ障なため、仲のいい友人がいなかったから。


 だから朔良に誘ってもらえて、とても救われた気分になっている。


(本当に嬉しい……けど……なんで私と……?)


 そこが、どうしてもわからない。

 朔良は美久里と違って、明るく活発な少女。

 クラスの人たちと仲良く喋っているところもちらほら見かける。


「……ね、ねぇ、朔良……」

「ん? どうした?」

「そ、その……なんで私とやろうって……言ってくれたの……?」


 ――訊いてしまった。

 極度の不安と焦りで、急激に気分が悪くなる。


 ――知りたい。でも知りたくない。

 少しの沈黙にも耐えられないほど、心臓が激しく脈打っている。


「――え? なんでそんなこと訊くんだ??」

「え、だ、だって……! どうしても気になっちゃって……」


 やっぱり訊くべきじゃなかった……

 美久里が後悔していると、朔良は天真爛漫に言った。


「別に理由なんかねぇよ。――“友だち”だろ?」


 その言葉を聞いて、美久里の視界に光がさした。

 きつすぎず、弱すぎない――暖かい光が。

 ずっと暗い場所にいた眼には、眩しすぎる光が。


「友だち……そっか……友だち」


 少し口角を上げた美久里は、嬉しそうに呟く。

 そして前を向いて、歩き出す。

 一緒にやる係を決めるため、いざ黒板へ――!


「…………え?」


 黒板に書かれた様々な係。

 そこはもうだいぶ埋まっており、余り物――一人ずつしか空いているところがない。


「う……うううう……」

「美久里!? 大丈夫か!?」


 結局、二人で一緒の係をすることは出来なかった。

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