となりの僕の恋愛
N
第1話 ありあまる理由。
――僕を抱くあなたの顔はどこか後ろめたそうにうつむいていた。
ぼんやりとした意識が続いた。
思いもよらない出来事、奇想天外の世界が夢うつつ。
熱い抱擁を繰り広げていた、一回り上の上司Y。
男だ。
朝の支度がはかどらない。夢だったと、絶対にありえないと――。
それなのに、どうしてこんなにも腑に落ちない僕がいるのだろう。
朝は冷え込むようになった。
顔を洗って、髪を整えて、コンタクトをつけて、ストールをありったけに巻いて職場に向かう。
Yと僕の席は隣。
「きょうは休みか」
Yが休みで安堵する。通勤中に流していた音楽を覚えていない。
夢が頭から離れないことは初めてだ。
「普段夢を見ないから尚更か」と言い訳をつけて、ありえない理由を集める。
ありえない理由① 昨年同僚の女性と社内恋愛の後、結婚。
ありえない理由② ことし2月に子どもが誕生。
ありえない理由③ そもそも男と恋愛をしたことがない。
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自分を守るように、正すようにたくさんの「ありえない理由」を考えた。
(着信音)
メール(Y:Nおはよう! きょう10時までに商品資料を営業部に渡しておいてください。 よろしく!)
思考停止。
脳みそフル回転で集めていたありえない理由を忘れるほど。
Yが忘れていた仕事を押し付けられた、苛立たしいメール画面に視線が引き寄せられる。
「Nさん!朝礼の時間ですよ!」
同僚に呼ばれて我に戻り、ありえない理由をかき集める。
メール(N:承知いたしました。)
僕は農業企業の広報企画部に勤める25歳、男。これまでの恋愛対象は女性で、それないりに付き合ってきた。身長も172センチと日本人平均並みでそこそこもてる(自称)
いまは優雅にお一人様を満喫している。
来るYは営業部部長、御年42歳。身長こそ僕より高いが年のせいか最近腹回りの肉がワイシャツの上から伺えてきた。いわばぽっちゃりしたメガネザルだ。
いつも空元気で歯をむき出しに頑張っている作り笑いに周囲は引き気味。
バツイチで女好きは社内で太鼓判だ。
――よって二人が抱擁し合うのは
続く
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