4. 三人の誓い

「ああ、なんてことだ。」ファボルはうめいた。「人類滅亡を抑止するために考えた理論のせいで、木星と土星が全面戦争に突入するなんて!」

ファボルは弟に言った。

「リムル。これから1年前の世界に戻ったら、僕は1年前の自分を見つけ出して、そいつを殺す。もし、僕がすでに、1年前のおまえにPWBM理論を話していたら、1年前のおまえも殺す。そして僕と一緒に自殺してくれ。そうすれば僕の理論は誰にも伝わらず、人類も滅亡しない。」

「ああ、良いよ、ファボル。でも、僕ら二人の秘密を盗み聞きしたやつがいるはずだ。そいつも殺さないと。」

「その通りだ。でも、そいつをどうやって見つけようか。」

「時間がかかりそうだな。」

「でも絶対見つけ出して殺さなきゃ。」


「それは僕だよ。」バズルが物陰から名乗り出た。

「君は誰だ。」

「僕はバズル。土星連邦の兵士。」

土星人サターニアン?戒厳令下のガニメデにどうやって。」

「僕は諜報員エージェントだ。潜入方法ならいくらでもある。

僕は特務を帯びて、君たちを見張っていたんだ。」

「特務だって?なぜ僕を見張る必要がある?」

「ふっ。」バズルは口の端をゆがめて自嘲した。「僕はただの産業スパイさ。ずっと以前から君に注目していたんだ。君が世界数学大会で優勝して以来、ずっとね。

ファボル。君は人類の宝だ。

きっと君の、新しい頭脳から、新しい理論が生まれてくるって思ってた。それを横取りしようと狙ってたケチなやつ。それが僕だ。僕も子供の頃は物理学者になろうと思ってた。でも僕はとうてい君にはかなわないって諦めて、作戦を変更したってわけ。ねえ、僕の予想は当たったじゃないか。でも、こんなやばい理論を君が生み出すとは思ってもいなかったがね。」

「そうか、つまり君が。」

「うん。1年前、君たちの会話を立ち聞きして、土星に通報したのは僕だ。」

「僕らを殺しに来た?」

「違う。」

「じゃあなんだ。バズル、聞いていたんだろう、僕らの話を。君も、1年前の君も、僕らは殺さなきゃならない。」

「安心してくれ。君らに手間は取らせない。自分の始末は自分でつける。僕自身が1年前の僕を探し出して殺す。そして僕も自殺する。そうすりゃ秘密は絶対にばれない。」

「ほんとか。だますつもりじゃないのか。」

「僕も、こんなことになるとは思ってなかったんだ。全面戦争に発展するのは想定外だった。

人類ってものを楽観しすぎていた。」

「僕もだ。」

「これは僕たちの責任だ。人類のためだ。覚悟はできている。」

三人の少年たちは堅く手を握り合った。

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