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プロローグ『アステール家を任せられるのはヒイロしかいない』
「アステール家を任せられるのはヒイロしかいない」
それが貧乏貴族だったアステール家を王国の有力貴族に引き上げた祖父の口癖だった。
ヒイロの祖父であるアステール・シルバは、王国でも数人しかいない勇者の職業に就いており、王国軍の大将軍の一人でもあった。その勇名は諸外国にまで轟いており、王国の平和に多大な貢献をしてきたと勲章も授与されている。
またシルバは武力だけでなく、領地経営にも才があり、商業、農業共に大きく発展させ、貧しい土地しか持たないアステール領を王国でも有数の財を持つ領地へと変えた。
家族や領民から愛され、国王からも信頼される英雄シルバだが、彼の唯一の欠点は孫であるヒイロを溺愛しすぎていたところだ。ヒイロが欲しいとねだれば何でも買い与え、彼の望みはなんでも叶える。英雄も孫の可愛さの前では無力だったのだ。
「アステール家を任せられるのはヒイロしかいない」
アステール家の英雄シルバも病には勝てず、亡くなることになるが、彼は死ぬ間際までヒイロに期待の眼差しを向け続けた。そんな期待に応えるべく、ヒイロは領地の子供たちの誰よりも努力した。
朝は剣の稽古から始まり、夜は暗くなっても勉強を続けた。そんなヒイロの努力する姿に、家族や家臣たちは、彼ならばシルバでさえ超えられると期待した。
そしてヒイロは十歳になる。すべての命運を決定する神殿での職業託宣が行われる年齢であった。
職業とは十歳以上ならば誰もが持ち、努力に成長補正を与えることのできる力だった。十歳までは職業の影響がないので努力した分しか力が付かないが、職業を与えられると、それぞれの職業に適した能力補正が適用されるのだ。
例えば剣士の職業に就いていれば剣の腕の上達が早く、魔法使いなら魔法を覚えるのが早くなる。
特に上位職業と云われている剣豪や賢者になれば剣士や魔法使い以上の補正が適用され、凡人が一年でする努力を僅か一分で経験することができ、修練を積んだ剣豪や賢者は一人で数千の兵と互角に戦うことも可能になる。
さらに剣豪や賢者を超える勇者ともなれば、剣と魔法、どちらの力も常人を超える。シルバのように王国内でも指折りの英雄となることができる。
「神よ。この俺に相応しい職を頼んだぞ」
ヒイロは自分に与えられる職業は上位職だと確信していた。なぜなら彼の一族は父親が剣豪で、母親は賢者、そして祖父が勇者のエリート貴族家系である。職業は遺伝することが多いため、キャベツ畑で拾われでもしていなければ、上位職を引き当てるのが自然な流れだった。
「最低でも剣豪か賢者になれる。あわよくば俺も爺ちゃんと同じ勇者に……」
ヒイロは誰よりも尊敬している祖父のシルバと同じ勇者になることを望んでいた。優しい両親に見守られながら神殿を訪れた彼に、神父が職業を託宣する。
「ヒイロくん。君の職業は……動画配信者じゃね」
「は?」
ヒイロは聞いたこともない職業を告げられ、現実逃避するように膝をガタガタと震わせる。下位職の剣士や魔法使いでもない、動画配信者という職業が彼の頭の中を疑問符でいっぱいにした。
「な、なんだ、その職業は!?」
「特殊職業の一つじゃね。上位にも下位にも属さないユニークな職業で、数万人に一人の割合でしか生まれない限定職じゃ」
「そ、そんなに珍しいのか?」
「儂も長年神父をしておるが、ヒイロくんで二人目じゃ」
「……その一人はどんな職業だったんだ?」
「自宅警備員という職に就いておった。家の外から出ると体調が悪くなるという制約付きの職業でのぉ、剣術や魔法の成長補正を得られない外れ職業じゃった」
「まさか俺の職業も……」
「剣術や魔法の成長補正はゼロじゃ。残念じゃったのぉ」
「う、嘘だ……お、俺はエリートの中のエリートなんだ……うっ……アステール家の領主に……俺はなるんだ……」
ヒイロは崩れ落ちて、涙をポロポロと流す。そして彼はすべてに絶望し、五年間、部屋の中に引きこもり続けた。
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