第50話
金太は父親の隣りに腰掛け、少し厚めに切ったカステラを増美から受け取ると、大きな溜め息をつきながら口に放り込んだ。
「どうした、金太。溜め息なんかついて。試験勉強が大変か?」
父親は金太の顔を覗き込みながら訊く。
「ううん、別にそんなことない」
金太は気持を見透かされないように懸命に装い、マグカップの熱い紅茶を啜った。
「金太、あんたの学校、そろそろ期末テストがはじまるんじゃないの?」
増美のぶっきらぼうな言い方は勉強を強迫するようにも受け取れた。
「うん」
金太は余計なことをいわれたくないという表情でカステラを頬張る。
そのときふいに父親がテレビのリモコンを手にすると、ぶつぶついいながら自分の観たい番組を探しはじめた。
さんざんチャンネルを切り替えたあと、父親は民法のバラエティ番組の画面で手を止めた。ちょうどお気に入りの女性タレントの顔が映ったところだった。金太は横目で観ながらふたつ目のカステラを口にしている。
「おもしろいニュースがあります。こんなことがあるのでしょうか。まずはこの映像をご覧下さい」
男性MCが驚きの表情で紹介をはじめる。画面が切り替わると、そこには黒山のような人だかりが映り込み、やがてマイクを持ったレポーターが状況を説明しはじめる。
あまりのテレビの騒々しさに画面に目を向けた金太が、思わず2度見した。そこに映っていたのは、貨物船でアメリカに渡ったジョージが、はちきれそうなTシャツを着た金髪のおばさんの手のひらの上でポーズを取っている姿だった。
金太は、チャンネルを変えようとした父親を制して、最後までニュースを見届けると、急いで2階の部屋に駆け上がって行った。
突然の金太の行動に、リビングにいた父親と増美は顔を見合わせ、怪訝な表情でただ金太の後ろ姿を見るばかりだった。
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