第4話

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 新学期がはじまって十日ほど経ったとき、朝の時間に担任の横田先生が男子の転校生を紹介した。

「みんな、聞いてくれ。今度このクラスでみんなと一緒に勉強することになった『河合涼介かわいりょうすけ』くんだ。仲良くしてやって欲しい。河合くん、みんなに挨拶を」

 横田先生は面倒臭そうにいったあと、教壇の隅に移動した。

 先生に紹介されると、細身で色が白く、ぱっと見は頭のよさそうな少年がおずおずと教壇の真ん中に歩み出た。

「河合涼介です。つい最近パパの仕事の都合で引っ越して来ました。この学校のことはなにもわかりませんので、教えて欲しいと思います。よろしくお願いします」

 河合涼介は恥ずかしそうな顔でぺこりとお辞儀をした。教室に大きな拍手が鳴り響いた。

「ようし、そうしたら、山井、きみの横の席空いていたよな。河合くん金太の横の席に行きなさい。金太、河合くんの面倒を看てやってくれ。いっておくけど、絶対にイジメはダメだからな」

 そういい残すと、担任の横田先生は急いで職員室に戻って行った。

「河合くんっていったよね、オレ山井金太。みんなは金太って呼ぶんだ、よろしく」

「ぼくは河合涼介っていいます。よろしく」

 涼介は金太のほうに顔を向け、丁寧に挨拶したあと顔を上げると、クラスのほとんどがこっちを向いてなにか聞きたそうな表情をしているのに愕いた。

 金太は、ただ自分の隣りの席に座っただけなのに、なぜかもう友だちになった気がして、涼介に職員室や売店の場所、それにトイレの場所など甲斐甲斐しく世話を焼くのだった。

 ようやく長いような短いような一日がすんで、帰り支度をはじめたとき、

「もしよかったら、一緒に帰らないか?」

 金太は遠慮がちにたずねる。

「うん、いいよ」

 涼介は転校早々新しい友だちができて嬉しかったのか、明るい笑顔で返事をした。

 ふたりが肩を並べて校門を出たとき、まだ勢いの衰えない残夏の陽射しが真正面から押し寄せる。

「ところで、河合くんの家はどこ?」

 一緒に帰ろうといった金太だったが、そういえばまだ家の場所を聞いてなかった。

「ここから東に歩いて20分くらいで、家から歩いて5分くらいのところに大きな公園があるよ」

「えッ? 公園?」

 金太は思わず横を向いて涼介の顔を見た。

「そうだよ。えーと、確か、友が淵公園っていったっけ」

「ひょっとして、きみは、あのお爺ちゃんの孫? ニューヨークに住んでるっていってた……」

「うん、ニューヨークには住んでた。でも引っ越したから、いまはジイちゃんと住んでるよ。山井くんはぼくのジイちゃんを知ってるの?」

 涼介は、共通の話題に行き着いたことでようやく自然な笑顔になった。

「ああ、よく知ってる。きみのお爺ちゃんもぼくのことをよく知ってるよ」

 気がつくと、金太は嬉しくて自然とスキップを踏んでいた。

 この河合涼介という転校生は、偶然にも金太が池で魚を釣っているときに仲良くなった老人の孫だったのだ。

 そういえば夏休みのある日、河合老人の家に遊びに行くと、家には老人も家政婦さんもいなくて、ただ金太あてに謎のメッセージが門のところに残されていた。

 あとになって、金太たちが河合邸を訪れたそのとき、河合老人はニューヨークの孫のところに行っていた、と聞いた。そのときの孫というのが、いま金太の隣りを歩いている河合涼介なのだ。

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