第95話 千葉エリア
「特定害悪組織認定されたのは、我々ガーディアンズだけではない。モンスターズ、ウォリアーズ、ダークリンクス、ネオグループ――」
会議室の前に立ったボスが、次々と怪人組織の名前を挙げていく。
全てが東京を代表する有名組織だ。その数、軽く見積もっても10以上。
「はっ、ヒーロー軍は血迷ったか? それだけの数を同時に相手できる訳ないだろう」
「全くね。とても正気の沙汰とは思えないわ」
向かいの席に腰掛けたテツとスコーピオンが、呆れたように肩を竦める。
「だからこそ不気味なのだ。ヒーロー軍は勝算のない戦いはしない。噂では昨晩、既にダークリンクスが壊滅させられたとか」
(ほう、あのダークリンクスが……)
ダークリンクスは、傭兵家業を生業とする怪人組織だ。
ガーディアンズとは商売敵にあたる。
「あそこのボス、結構強くなかったっけ? 七剣にでもやられたのか?」
少し気になった俺が、隣のティガーに小声で尋ねると、
「どうせまたエタニティーでしょ。最近、殆どあいつだし」
向かいの席のスコーピオンが不躾に口を挟んできた。
「いや、それはない」
それを即座に否定する。
「なんであんたにそんな事がわかるのよ?」
「いや、なんでと言われても……」
(サツキの奴、昨晩はずっと家でゴロゴロしてたからな)
うーむと唸る俺の横で、
「ダークリンクスのボスを殺ったのは、ヒーロー軍ではないよ」
代わりにティガーが口を開いた。
「千葉との県境に頭のねじ切られた死体が放置されていたらしいからね。ヒーロー軍ならこんな野蛮な真似はしないだろう?」
「ま、まあ、そうね……」
ティガーの言葉に、スコーピオンが納得したように頷く。
「でも、それなら、誰が“クロヒョウ”を殺ったのよ?」
その質問に、ティガーが待ってましたとばかりに答えた。
「間違いなく千葉怪人の仕業だね」
(千葉怪人!?)
千葉怪人と言えば、とにかく戦闘力が高く、気性が荒い事で有名だ。
彼らのテリトリーに誤って踏み込めば、どんな強者でも生きて帰れないと言う。
それほどまでに、危険な連中。
できれば、一生関わり合いになりたくない相手だ。
(まあ、俺が千葉に行くことは無いし、どうでもいいがな)
完全他人事感覚で聞き流す俺を余所に、ボスが大声を出した。
「――とにかく! 特定害悪組織認定が出た以上、我々もいつ狙われるか分からん! 各自、最大限の注意を払うように!」
「「「はっ!」」」
☆☆☆☆☆
「知ってる? 今度、配置換えで“エンペラー”が東京本部に来るんだって」
昼下がりの教室。
机を寄せ合って弁当を食べていたユナが、ふと思い出したように言う。
「エンペラー……って、あの七剣の?」
「そっ、“千葉の皇帝”! 噂では、かなりの美男子らしいよ?」
「へー」
箸を動かすのに夢中なサツキが、空返事をしていると、
「エンペラーなら、とっくに本部に来てるわよ」
不意に別の声が割り込んできた。
気がつくと、いつの間にか真横にアオイが立っている。
「あっ、西園寺さん。黒薔薇隊の任務はもう終わったの?」
サツキからの質問に、
「まあね。昼食を終えたらまたすぐ別の任務に行かなきゃだけど」
アオイが疲れの滲んだ声音で答えた。
そのまま、近くの椅子を持ってきてドカリと腰を下ろす。
「黒薔薇隊の活動は大変?」
「大変なんてものじゃないわ。朝から晩まで任務、任務、任務。まともに授業なんて受けられないんだから」
「へー、やっぱり配属される部隊によって全然違うんだねー」
サツキの所属する白烏隊は、任務よりも学校の授業を優先させてくれる。
(ああ見えて、シロエ大尉って結構良心的なのかな?)
一人首を捻るサツキの正面で、
「ねぇねぇ、アオイちゃん! もしかして、本部でエンペラーに会ったの!?」
身を乗り出したユナが興味津々といった様子で尋ねた。
「会ったというか、遠目で見ただけだけど……」
「どんな人だった!? やっぱり、カッコ良かった?」
「いや、カッコ良かったもなにも――」
ユナの勢いに気圧されたように、上体を仰け反らせたアオイが言いにくそうに答える。
「――70歳くらいのお爺さんだったわよ」
「「え?」」
思わず、驚きの声がユナと被った。
(七剣神王ってお年寄りもいるの?)
☆☆☆☆☆
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。エンペラーってどんな人か知ってる?」
その日、夕食の席でサツキが突然そんな事を尋ねてきた。
「ん? どうしたんだ急に? エンペラーなんてお前から一番遠い存在だろ」
予想外の質問に、思わずカレーを食べていた手を止める。
七剣神王のエンペラーは、千葉ヒーロー軍の大エースだ。
日々殺し合いを繰り返す千葉怪人が、一般市民に手を出さないのは、彼との対立を避ける為だと言われている。
それほどまでに絶対的な存在。
(東京ヒーロー軍所属のサツキとは、一切関わりがない筈だが……)
不思議に思う俺に、
「なんかさ。今度、新しく東京本部に来たって聞いたから、あらかじめどんな人か知っておこうと思って。ほら、お兄ちゃんヒーローに詳しいでしょ?」
口元を抑えたサツキがさらりと言う。
その衝撃的な内容に、自身の耳を疑った。
「え? 今、東京にエンペラー来てるの?」
まさかまさかの妹経由でヒーロー軍の内部情報ゲット。
(こりゃ、都内が荒れるぞ……)
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